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□ 「はっ……はぁっ……やった。やったんだ、ベガさんの仇を……この手で討ったんだ」 撃墜した敵機を見下ろし、荒い息をつく。 操縦桿から手を離そうとするも、強張った指先は中々動かない。興奮が冷め、ようやくカミーユは冷静になった。 ピンポイントバリアパンチは正確に敵機のコックピットを抉った。生命反応はない―――殺した。 だが、達成感などない。怒りに任せて動いたものの、残ったのはどうしようもない気持ち悪さだけだ。 「なんで……なんでなんだよ。お前にも帰りたい場所があって、大切な人がいたんだろう……?」 落ち着いてみれば、あのパイロットが言っていたことも理解できなくはない。突然こんな戦いに放り込まれれば、錯乱もする。 ベガを殺したことは到底許すことなどできないが、それでも他に方法があったのではないか……そんなことを考える。 と、キョウスケから通信。 「カミーユ、落ち着いたか?」 「……ええ、中尉。すみません、勝手なことをして」 「構わん。お前は結果を出した……それに元はと言えば俺が下手を打ったのが原因だ。お前が気に病むことはない」 「でも」 「責任があるとするなら、俺と。そしてユーゼス、貴様だな」 キョウスケの乗るビルトファルケンは黒い特機へと向き直っている。その様はまるで今にも剣を交えんとする戦士のようだ。 「あの特機は何なのか。乗っていたパイロットはどこにいたのか。どうしてこんな事態が起こったのか。 そして貴様は何をしていたのか……答えてもらうぞ、ユーゼス・ゴッツォ。返答次第ではただでは済まさん」 キョウスケの声は静かながらも言い逃れを許さない剣呑さを帯びている。 自分もユーゼスは信用できない。ここはキョウスケの話を聞くべきだ。 もし、やつが想像通りの邪悪なら……再び、この機体を駆けさせることになる。ユーゼスの動き、欠片も見落とすまいと集中する。 「答えよう、キョウスケ・ナンブ。ただし」 響いた声は黒い特機からではなかった。 発信源……ローズセラヴィー。ユーゼスは黒い特機に乗っているんじゃなかったのか。 だが映像ははっきりとローズセラヴィーのコックピットハッチに立つユーゼスを映し出している。 一瞬、カミーユ・キョウスケともに注意がブラックゲッターから外れた―――その刹那。 「がッ……!?」 鋼鉄の隼・ビルトファルケンを、復讐鬼・ブラックゲッターの斧が斬り裂いた。 「え……何を。何を、して、るん、だ……?」 キョウスケの苦悶。弾け飛ぶファルケン。 ブラックゲッターはその勢いのまま、今度はカミーユへと向かってくる。 「君が、それまで生き残っていれば、だが」 「キョウスケ中尉……キョウスケ中尉――――――ッ!」 落ちていくビルトファルケン。だが、それを追えるほどの余裕を、ブラックゲッターは与えてはくれなかった。 □ 「……が、あ……」 目を開くと、とたんに何故目を開けたのかと後悔した。 視界いっぱいに広がる赤。体のそこかしこに突き立つ鋭い破片。 「……幸運は、二度も、続かんか……」 すべての始まりといえるシャトル事故を思い出す。エクセレンが死亡し、己は瀕死の重傷、だが生き残った事件。 「やったのは、ユーゼス……いや、おそらくはあの男、か。つくづく……甘いな。俺と、いう男は」 ビルトファルケンは辛うじてまだ空にある。だが、肝心の中身が……キョウスケは、もはや牙の折れた手負いの狼だ。 あのとき機体を襲った衝撃はコックピットの中を跳ね回り無数の飛礫と化してキョウスケを襲った。 致命傷だ。 モニターを見やれば、消去法で考えれば恐らくアキトが搭乗しているだろうブラックゲッターとカミーユの戦闘機が、激しいドッグファイトを演じている。 先程の人事不省寸前といった体からは考えられない鋭い動き。あの薬のおかげだろうか? 援護しようにも、腕がどうしようもなく重い―――操縦桿を引くことにさえ、凄まじい重さを感じる。 どうしようもない……いや。 薬。あの薬なら一錠持っている。念のためにアキトから奪っておいた、最後の一錠が。 得体のしれない薬、普段なら飲むはずなどないが――― (俺が蒔いた種だ。俺が刈り取らねば……な) 鉛のような腕をどうにか動かし、躊躇いなくカプセルを飲み下す。 どくん、と。 体の奥で何かが脈動した。 (痛み止め……ではない!? なんだ、この薬は……!) 凄まじい熱。次いで、氷のような冷気。自分という存在が、浸食されていく。 「ぐ……がああああああっ!」 頭の中で激しく火花が散る。影、霧のような、何かが、見える―――これは。 時間が止まる。近づいてくるのは――― 視界が黒に染まる。おぞましくも懐かしい、この気配。 (捕らえた……ぞ) 脳裏に直接響く声。知っている、この声は。 (ようやく……届いた。我が……声が……) 「この……声、貴様はッ……!」 かつて打ち破り、そして今また己が運命を操ろうとする存在、ノイ・レジセイア。 撃ち貫くと誓った存在が、ここにいる。キョウスケのすぐ傍に。 (……お前こそ……ふさわしい。審判の……存在……) 「何を……言っている。俺に、何の用だ……!」 (お前は……またも、生き延びた。そして、我を受け入れるに、足る……器を、手に入れた……) 「受け入れる、器……? 俺を、支配しようというのか―――エクセレンのようにッ!」 (拒むことは……できない。お前は、選んだ……人でなくなる……ことを。我に……近い存在と、なる……ことを。だから、我と……繋がる、ことが……できる) あの薬。危険なものだとは覚悟していたが、まさかここまでのものだったとは予想していなかった。 キョウスケは知らぬことだが、件の薬一つ飲んだだけで人でなくなるということはない。 薬の正体は希釈されたDG細胞。アキトのように身体に欠落する箇所があるものが服用すれば、DG細胞はそこを補うように展開する。 対して健常者が使えば、DG細胞は拡散する場のないまま沈殿する。そして感染力の弱められたそれは、時間とともに体内の免疫細胞によって駆逐される運命にある。 キョウスケの不運は、体力の低下した状態で薬を服用したこと。 結果、普段なら駆逐されるべきDG細胞がさしたる抵抗もなく体内に行き渡ってしまった。 そして、ノイ・レジセイアの波動。意志を持たないDG細胞に指令を下し、その働きを統制するもの。 キョウスケの体の支配権は急速に奪われつつあった。 下手を打った―――後悔が頭をかすめ、だが同時に、どこか奇妙なほど冷静な内面の己が叫ぶ。 ―――ここが勝負所だ、と。 手の届かないところにいた主催者が、降りてきた。それも手の届くどころではない、己の内面という極めて近く……限りなく遠い場所に。 何故人間たるキョウスケの身の内に降りるのか。アルフィミィの気まぐれか、あるいはそれほど差し迫った理由があるのか――― どちらにせよ、好機。 かつてエクセレンがそうであったように、アインストとなった自分が突破口となる―――この箱庭の戦いの。 賭けに負け、自分が自分でなくなったとしても……止める力はある。かつての仲間たちと同じ、信頼できる力が。 「くくっ……ああ、いいだろう……この身体、存分に貪るがいい。だが、もし貴様が俺を、人間を、取るに足りない存在だと驕っているのなら」 不思議なことに、微かに楽しくなってきた。 そう、キョウスケ・ナンブという人間を端的に表すのなら一文で済む。 ―――分の悪い賭けは嫌いじゃない。 「遠くない未来……貴様は再び打ち砕かれる。 この牙を貴様の喉笛に突き立て、その存在を欠片一つ残さず消し去ってみせる。今度こそ、完全にな」 言葉を切ると同時、気配が遠ざかり、体の感覚も薄くなっていく。 落ちていく鋼鉄の隼。その先に眠るは、相棒たる鋼鉄の孤狼。 「フッ……そうだな、お前がいなければ始まらんな―――アルト。付き合ってくれ、地獄の底のさらに下、俺の、最後の戦場へ……!」 鋼鉄の系譜……ともにつがいを失ったものが、互いに互いを抱擁する。これが始まり―――キョウスケは目を閉じた。 □ 「テンカワ……といったか。目的は果たしただろう、ここは引くぞ」 「……何故だ。俺としてはこの機体もここで仕留めたいのだがな」 可変戦闘機……おそらくYF-21と同じバルキリーであろう機体と干戈を交えていると、ユーゼスが通信してきた。 あの化け物のような機体からだ。横目で見やると、驚くべきことにあれだけの攻撃を受けてもあの機体は健在だった。 とはいえパイロットはさすがに死亡したようだ。 仮面の男が抉り取られたコックピットから何かを引きずり出し、放り投げるのが見えた。 どうも人体のパーツであると思わしきそれらは大地に叩きつけられ、粉々になった。 「仕留められるのならそれもいいが、何があったか私にも把握し切れてはいない。 君の位置からも見えるだろう? ファルケンがアルトと未知の反応を起こしている。 墜落したキョウスケ・ナンブがなんらかの変化をもたらした公算が大きい。現時点では交戦を控えるのが賢明だ」 見れば、墜落したキョウスケの機体はアルトと溶け合っていくように見える。 まさか斧の一撃で機体が融解するほどの熱量が発生するわけもない。何かが起こっているのは疑いのないことだった。 アルフィミィからアルトを譲り受けた時のように、いささか信じがたいものであったが。 「だが、こちらは二機だ。どうであれ押し切れるのではないか?」 「君が健常ならな。ああ、言ってなかったがブラックゲッターの中はモニターさせてもらっていたよ。 大事そうに抱えてきたあの薬は劇薬のようだが、確証はあるのかね? 効果が切れるまでにあれとその戦闘機を倒せると」 「……ないな。だが薬にも限りがある。一つ使ってしまった以上、おいそれと引くわけにはいかん」 ユーゼスの抜け目のなさというより自分の不用心さに憤る。薬のことを知られたのは痛い。 「その点は問題ない。サンプルさえあるなら今のAI1で量産が可能だ。 もちろん、君が私に貴重な薬を一つ預けてくれるなら、という条件付きではあるが」 「何が狙いだ、貴様。俺が優勝を狙っているのは知っているだろう」 「さあ、どうせ何を言っても君は信じはしまい? だからこうとだけ言っておこう。『どちらでも構わん』と」 「……、どういう意味だ」 「何、そのままさ。君が私を信じようと信じまいと、どちらでもいい。 信じないのならここで別れるだけだし、信じるのならそれなりの見返りは約束しよう。どのみち最後は戦うことになるのだろうしな」 「条件付きの同盟というわけか」 「そうとってもらって構わん。……おっと、これ以上言葉遊びに時間を費やすのもいかんな。さあ、選びたまえ。私とともに来るか否か」 「……いいだろう。俺からの条件は薬と情報だ。それを満たすのなら貴様の指示に従ってやる。 ただし、残り5人あたりになれば手を切らせてもらうがな」 「ふむ……交渉成立だな。では行こうか」 戦闘機もアルトの変化に気づいたようだ。パイロット―――キョウスケの名を叫びつつ距離を取り、旋回している。 といってもこちらに隙を見せているわけでもないが、少なくとも注意は向けられていない。離脱するのは容易かった。 戦域を離れ、ある程度距離を置いたところで語りかける。 「で、どこへ向かう。基地に向かってくるやつはいるはずだ。そいつらを狙うのか?」 「さしあたっては別の施設だな。君の薬のこともある。研究所などがあればいいのだが」 「施設……それなら心当たりがある。と言っても、問題はあるが」 「ほう?」 「戦艦を二隻、確認している。一隻は戦いに乗っていて、もう一隻は不明だ。俺としては……後者、ナデシコを探すことを薦める。あれならば研究設備も充実しているからな」 「ほう……勝手知ったる口ぶりだな?」 「……貴様には関係ない」 「フ、まあいい。では当面そのナデシコなる艦との接触を目標としよう。では行こうか……共犯者よ」 共犯者。仲間、相棒などと称されるよりよほど合っていると思った。 どうせ目的を果たすまでの仮初の同盟。いずれ殺す相手に必要以上に気を許してはいけない。 特にこの仮面の男は底が知れない。迂闊な隙は見せられない。 ……不意に、自分が討った男を思い出す。 ユリカを失った自分と、まるで鏡に映したような境遇の男。違うとすれば悪魔の誘いに乗ったかどうか。 内心はどうあれ、あの男は自分を助けた。だがその返礼として自分は彼を背中から斬った。 後悔はないものの、胸が痛まないということはない。 しかし、やつは生きているかもしれない。戦斧は確実にコックピットを切り裂いた、それは確認している。 なのにあの赤い機体は狙ったようにアルトアイゼン、己が放置した機体のすぐ傍に落ち、融合を始めたのだ。 傍目にも尋常な様子ではなかったが、はたしてあの変化の内部にいた男は無事なのか。 万が一無事だったとして……その時キョウスケは、もはやアキトを保護すべき対象としては見ないだろう。 次に会ったときはその身を喰らい合うことになる、それは確実だ。 ガウルンともまた違う、奇妙な縁ができた。影と戦うようなものだ、とおかしさがこみ上げる。 (キョウスケ・ナンブ。許しを請うつもりはない……だから、俺の前にお前が立ちふさがるのなら、何度でも) 決意は変わらない。何よりも重いのは、ユリカの命だ。 (そう、何度でも撃ち砕く。戻る気はない……これが俺の、俺にできる唯一の……贖罪、なのだから) □ 通信を切る。この男、テンカワ・アキト。 先程の動きをみるに、腕は確か。そしてあの割り切った態度、道行きを共にするには申し分ない。 だが……失望した。この男は己を滅する敵たり得ない。 この男にはキョウスケ・ナンブほどの信念を感じない。おそらくは優勝すれば望みが叶うという口車を信じたのだろう。 だがその望みがかなう保証はどこにもない。己が主催者の立場なら、今頃さぞ口角を吊り上げているだろう―――哀れな道化。 自ら勝ち取る道を選ばず、ただ与えられるものを享受する……そんな輩に興味などない。 しばらくは協力するが、AI1が問題なく稼働するようになればいつでも切り捨てる。 仮面の魔人にとって黒き復讐者はその程度のものだった。 基地を放棄したのも些事だ。あとはある程度の設備があれば首輪の解析は可能。 ベガは……惜しいことをした。彼女にはまだまだ有用性はあったのだが、まあ仕方ないことだ。 カミーユ・ビダン。これもまた、些事だ。賢しいだけの子供などいくらでもあしらえる。 当面はナデシコなる戦艦を探しつつ、首輪とバーニィが遺した戦闘データを解析する。 これでAI1はまた成長できる。あの半端者も、最後の最後で少しは役に立ってくれた。 それよりも、思考を占めるのはキョウスケ・ナンブのこと。 アキトの一撃はたしかにやつに致命傷を与えたはず。だが、この背筋に残る怖気は何なのだろうか。 死んではいない―――そんな予感が頭から離れない。 あの男の操縦技術、決断力はたしかに目を見張るものがある。 しかしそれだけではこの状況を説明できない。撃墜し、沈黙したと判断したその瞬間、あの得体のしれない気配は「来た」。 念動能力者でもサイコドライバーでもないキョウスケ・ナンブとただのパーソナルトルーパーでは成し得ない事態、考えられるとするなら。 メディウス・ロクスが仕掛けたヘブン・アクセレレイションは一瞬、確かに次元に穴をあけることに成功した。 バーニィ如き未熟者でなく自身が乗っていたなら正確に観測できていただろうが、是非もないことだ。 とにかくあの一瞬。あの一瞬、何かが「紛れ込んだ」のだ、この世界に。 キョウスケ・ナンブの話では、彼は主催者の化け物と浅からぬ因縁があるという。 あの場で介入して来る存在と言えば、一つしかない。主催者がキョウスケを死なせないために行動したということだろうか。 だが解せないのは何故時間をおいてあの気配は発現したのか。 キョウスケ・ナンブが何らかのアクションを起こした―――何を? だがその答えは現状では導き出せない。 ともかく、生死が確認できていないのなら、やつは生きているとして扱うべきだ。 そして生きているならあの男は今度こそ向かってくる。必滅の決意とともに。 ぶるり―――我知らず肌が泡立った。愛しき宿敵以外にこんな感情を持つのはいつ以来だ? まったく、退屈しないな、この世界は―――哄笑を抑えきれず、身を反らす。 いいだろう、来るがいいキョウスケ・ナンブ。私は逃げも隠れもせん。 お前の牙がこの身に届くと信じているなら……喜んで相手をしてやろう。 己が映し身のように、彼に導かれたサンプル達のように。強い「力」を、更なる力でねじ伏せることで。 「その意志が、その熱が―――私を遥か超神の高みへと押し上げるのだからなぁ―――!」 □ 「キョウスケ中尉! 応答して下さい、キョウスケ中尉!」 ニュータイプの感性に頼るまでもなく、わかる。 今、キョウスケ・ナンブという男は変わりつつある。 寡黙だが信頼できる男の発する気配は、時を追うごとに歪んだ何かへとすり替わっていく。 「……カ、ミ……ユ。き……える、か……」 「キョウスケ中尉! 無事なんですか!?」 「……いい、か、よく、聞け。ユー……ゼスは、危険だ……。奴と、もう、一人。テン、カワ……アキトという、男……こいつらは、乗っている……躊躇う、な、倒せ」 聞こえてきたのは己のことではなく、敵のこと。まるで、仲間に後を託して逝く戦士の声。 「あなたは……何を言ってるんです! すぐに救助します、もう喋らないで下さい!」 「聞け……ッ! 俺は、もう……長くは、持たん……。エクセレンの時と、同じことが……時間が、ない。不本意、だが……お前に、託す。聞くんだ……」 「そんな勝手なことを……!」 強引にでもコックピットから引きずり出して……そうしようとした瞬間、眼前の異常に目が奪われる。 ビルトファルケンの鋭角なシルエットが崩れる。下敷きとしていた蒼い機体と溶け合っていくように、一つになって。 真紅と、深蒼が、混じり合う。 「俺は、かつてあの、化け物……ノイ・レジセイア……を、撃破、した。やつが何故、蘇ったのかは……知らんが、決して、倒せ、ない存在では……ない」 何かが、生まれる。存在してはいけない何かが。 だがその渦中の男は構わず喋り続ける。かつてあった戦い、その結末を。 そしてこの世界であった、新たな戦いを。 「カミーユ……力を、集めろ。お前……だけでは、足りん……もっと多くの、強く、激しい力、で……今度こそ、やつの、存在……を、消し去る……ために」 「中尉……ッ!」 「そして、力が……集ったのなら、……カミーユ。まず、俺を……殺しに、来い。 他の誰でもない……お前が、だ。俺の声を聞いた、お前が……俺を、止めろ」 「何を、言ってるんです、中尉? どうして俺があなたを殺さなきゃならないんですか!?」 「俺は……やつらと、同じ……存在に……アインストに、なる。 だが、恐らく……ユーゼス・ゴッツォ、あの男……は、それ……さえも、利用……しようと、する、だろう。 だから、その前に、お前が……俺を殺せ。あの男の……良い様に、踊らされるなど……真っ平だから、な」 「俺に、あなたと同じことをしろって言うんですか!? ゼクスさんやカズイを殺した、あなたと……!」 「ゼクス……、そうか、やつも……こんな気分、だった……のかも、しれん、な……お前には、重いものを、背負わ、せる……すまん、な」 不意に、水音。大量の水をぶちまけたような。狭いコックピットで考えられるものなど、一つしかない―――血だ。 「もう……行け。そろそろ、限界……俺が、俺でいられるのは……ここまでの、ようだ……」 「中尉、俺は……俺は……ッ!」 「……行けッ! カミーユ・ビダンッ!」 もう口を開くことさえ辛いはずなのに、その一喝はカミーユを怯ませる。 「ま……待って下さい、俺はまだ、あなたに……ッ!」 「ベガはお前を守って……死んだのだろうッ! その命、もはやお前の勝手で容易く捨てられるものではないぞ! 生きろ……戦え、カミーユ! お前が生きて、やつらを討てば……それが、俺達の勝利だッ……!」 「……中尉」 と、もはや形も定かではないビルトファルケンの腕が伸びる。取り付けてあったブーストハンマーを外し、こちらに放り投げた。 「これを……使え。 ……勝て、カミーユ。お前には……力がある。想いを、強さへと変える、ことが……できる、力が。俺の……命。持って、行け……」 「あ……お、俺は……!」 「さらばだ……、カミーユ。死ぬな、よ……」 やがて、真紅が駆逐され、深蒼が湧き出でる。 二機の影は一つになった。 ―――蒼い、アルトアイゼンに。 「……ッ、……う、あッ……あ、うぁぁあああああああああああァァッッ!」 ハンマーを拾い上げ、ファイター形態へと変形。変わっていくビルトファルケン……否、もはや隼でも古い鉄でもない機体から、「逃げる」。全速で、振り返らず。 (俺は……俺は……ッ! 守ってもらうばかりで、あの人たちに何も……何も!) 「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!」 もう背中を守ってくれるキョウスケはいない。隣で支えてくれるベガは、前に立ち導いてくれるクワトロはいない。 危険と知りながらユーゼスを放置した、その自らの甘さが招いた惨劇―――ベガと、キョウスケが代わりにそのツケを払った。 クワトロとは出会うことなく死に別れた。すべてが遅すぎたのだ。 後悔、怒り、悲しみ、憎しみ。そのすべてが混沌となり、だが皮肉にも身体を突き動かす力へと変わっていく。 「やってやる……やってやるさッ! ユーゼスも、アキトってやつも、あの化け物も……そしてキョウスケ中尉、あなたも! 俺が……俺が! 俺が、全て倒すッ! あなたの望み通りに……あなたを、ベガさんを、クワトロ大尉を―――勝利させるために……ッ!」 身体の奥に、熱い―――熱い、炎が灯る。すべてを灼き尽くす、根源の力。 今、この荒ぶる熱とともに誓うべき言葉は、ただ一つ。そう――― 「すべて……撃ち貫いてみせる……!」 【カミーユ・ビダン 搭乗機体:VF-22S・SボーゲルⅡ(マクロス7) パイロット状況:強い怒り、悲しみ。ニュータイプ能力拡大中。精神が極度に不安定 機体状況:ブーストハンマー所持 反応弾-残弾0 EN・火器群残弾10% 現在位置:G-5 第一行動方針:対主催戦力と接触し、仲間を集める 第二行動方針:ユーゼス、アキト、キョウスケを「撃ち貫く」 第三行動方針:20m前後の機体の二人組みを警戒 最終行動方針:アインストをすべて消滅させる 備考1:キョウスケから主催者の情報を得、また彼がアインスト化したことを認識 備考2:NT能力は原作終盤のように増大し続けている状態】 【テンカワ・アキト 搭乗機体:ブラックゲッター パイロット状態:マーダー化、五感が不明瞭、疲労状態 薬の持続時間残り15分 機体状態:全身の装甲に損傷、ゲッター線炉心破損(補給不可) 現在位置:F-7北東部 第一行動方針:ナデシコの捜索(とりあえず前回の接触地点であるD-7へ) 第二行動方針:ガウルンの首を取る 第三行動方針:キョウスケが現れるのなら何度でも殺す 最終行動方針:ユリカを生き返らせる 備考1:首輪の爆破条件に"ボソンジャンプの使用"が追加。 備考2:謎の薬を3錠所持 備考3:炉心を修復しなければゲッタービームは使用不可 備考4:ゲッタートマホークを所持】 【ユーゼス・ゴッツォ 搭乗機体:メディウス・ロクス パイロット状態:若干の疲れ 機体状態:全身の装甲に損傷、両腕部・右脚部欠落、コックピット半壊、自己再生中 現在位置:F-7北東部 第一行動方針:ナデシコの捜索、AI1のデータ解析 第二行動方針:首輪の解除 第三行動方針:サイバスターとの接触 第四行動方針:20m前後の機体の二人組みを警戒 第五行動方針:キョウスケにわずかな期待。来てほしい? 最終行動方針:主催者の超技術を奪い、神への階段を上る 備考1:アインストに関する情報を手に入れました 備考2:首輪の残骸を所持(六割程度) 備考3:DG細胞のサンプルを所持 備考4:機体の制御はAI1が行っているので、コックピットが完全に再生するまで戦闘不能】 【メリクリウス(新機動戦記ガンダムW) 機体状況:??? 現在位置:G-6基地内部】 【月のローズセラヴィー(冥王計画ゼオライマー) 機体状況:右半身大破、月の子全機大破、EN残量0 現在位置:G-6基地】 【バーナード・ワイズマン 搭乗機体:なし パイロット状態:死亡】 【残り21人】 【二日目 7 10】 □ (行った……か。まったく……世話の焼ける……) もはや声が出ているかも定かではない。 だが不思議とキョウスケに恐怖や後悔といった感情はなかった。 (エクセレン……遅くなって済まないが、まだお前のところには行けないようだ……) 意識は朦朧としているのに、感覚が広がっていく。機体に神経が繋がるような…… これはそう、アルト。いや、ゲシュペンストMkⅢという方が正しいか。アルトは蒼くはないものな……と、かすかに笑みがこぼれた。 (気がかりはユーゼスとあの男……手の内をすべて見せたわけでもあるまい。まだ何か企んでいるか……) そして、主催者。アルフィミィにノイ・レジセイア。問題は山積みだ。 (……だが、勝つのは俺たちだ。ノイ・レジセイア、何をしようと貴様の滅びは決まっている……俺達を敵に回した時から、な) 意識が消える、その刹那。彼女が、笑った気がした。 『ほんと、分の悪い賭けが好きねぇ』 (フン、何とでも言え……見ていろ、あいつは来る。俺を……撃ち貫き、この闘争の世界を、破壊するために。 俺の命をチップにしたんだ、それくらいの配当がなければ釣り合わん……なあ、そう……だろう―――カミー、ユ―――) 勝て―――その意志を残し。 ―――そして、「キョウスケ」が沈んでゆく――― □ 静寂の……世界。創らねばならない…… 望まぬ……者を……望まぬ……世界を……破壊しなければならない…… 人間……これこそが……この、身体こそが…… 試す……そう、試さねば……この器が、新たな、宇宙を……創るに足る、ものか…… すべて……消去する。我の前に……立ちふさがる者、すべて…… ――――――撃ち貫く、のみ―――――― 【キョウスケ・ナンブ 搭乗機体:ゲシュペンストMkⅢ(スーパーロボット大戦 OG2) パイロット状況:アインスト化 、DG細胞感染 機体状況:アインスト化。 現在位置:G-6基地跡地 第一行動方針:すべての存在を撃ち貫く 第二行動方針:――――――――――――――――――――カミーユ、俺を……。 最終行動方針:??? 備考1:機体・パイロットともにアインスト化。 備考2:ゲシュペンストMkⅢの基本武装はアルトアイゼンとほぼ同一。 ただし全般的にスペックアップ・強力な自己再生能力が付与。 ビルトファルケンがベースのため飛行可能。 また実弾装備はアインストの生体部品で生成可能】 本編160話 すべて、撃ち貫くのみ(1)すべて、撃ち貫くのみ(2)
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三年間の幸せ ◆ZbL7QonnV. ……死んだはずだった。 たった三年間の寿命を終えて、彼女は死んだはずだった。 今でも、はっきりと覚えている。 幸せだった、と。 ジョシュアに出会えて幸せだったと、人として生きる事が出来て幸せだったと、そう言い遺して彼女は眠りに就いたはずだった。 「ラキ……」 胸に、微かな痛み。 ああ、まだ自分は彼女の事を忘れてはいない。 彼女と共に過ごした日々を、そして彼女を失った悲しみを、まだ自分は忘れていない。 ジョシュア・ラドクリフは――グラキエースを、愛している。 彼女と共に過ごした時間は、彼女の寿命が尽きるまでの三年間。決して、長い時間ではない。 だが、彼女との思い出は、それこそ星の数ほど無数にあった。 何気無い一日の繰り返しが、彼女と共に過ごした穏やかな日々の積み重ねが、ジョシュアには何よりも大切な宝物だった。 そして、きっと彼女にとっても。 だから、彼女は笑って眠りに就いたのだ。 彼女と過ごした日々が幸せだったからこそ、ジョシュアもまた微笑み彼女を見送ったのだ。 だが―― 「生きて……いるのか……?」 このバトルロワイアルの会場に降り立ってから、懐かしい感覚が彼を襲っていた。 ジョシュア・ラドクリフの中に溶け込んだ、グラキエースの心の欠片。それが、再び目覚めようとしていたのだ。 ……彼女が死んでから、ずっと胸の奥で燻っていた喪失感。だが、今はそれを感じない。 そう、グラキエースは生きている。 この、殺し合いが行われている世界の中で。 ならば、どうする? 俺は……。 「……逢いに行くよ、ラキ」 胸の中で騒いでいる、冷たく澄んだ彼女の心。 それを確かめるように、ジョシュアは胸元に手を置き言う。 どうして死んだはずの彼女が居るのか、その理由は分からない。 だが、彼女が生きているならば、自分の為すべき事は決まっている。 そう、逢いに行くのだ。 繋がり合う心の糸を手繰り寄せ、必ず彼女に辿り着いてみせる―― 「……誓ったからな。俺が、君の居場所になると」 だから、俺は彼女に逢う。 そう誓って、ジョシュアは機体に乗り込んだ。 【ジョシュア・ラドクリフ 搭乗機体:騎士機ラフトクランズ アル=ヴァン機(スーパーロボット大戦J) パイロット状況:良好 機体状況:良好 現在位置:D-2 第1行動方針:グラキエースとの合流 最終行動方針:ゲームからの脱出 備考:グラキエースとの精神共感 ラース・エイレム使用不可能 オルゴンソードFモード使用可能(クロー、ライフルはFモード使用不可能)】 本編14話 アンチボディ、二体
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薄氷の同盟 ◆T6.9oUERyk どうしたものか。 蒼いMS(少なくともMSとよく似た)らしき人型機動兵器と対峙しながらヒイロ・ユイは考える。 背後を取っていながら奇襲を仕掛けなかったことから、相手に“今は”交戦の意思が無いことが分かる。 だが、相手は未だ何のアクションも仕掛けてこない。 対話の意思があるのか、値踏みでもしているのか、それとも単に戸惑っているだけなのか… こちらから通信を開くべきか。 油断無く蒼い機体を見定めながら、そう考え始めた矢先。 「新手か」 レーダーに反応、南方から一機接近してくる。 見ると対峙する蒼い機体も気づいたようだ、機体の向きを南側へと僅かにずらす。 そのままじりじりと時間は流れ。 やがてあらわれたのは、2門の巨大な砲を担いだ重厚なMS(?)。 その長距離砲撃戦用らしき機体から通信が入る。 『こちらは九鬼正義。そちらの2機、聞こえるかね?』 『こちらはヒイロ・ユイだ。』 黒い機体からは即座に感情の感じられない平坦な声が返る。 ややあって蒼い機体からも反応が。 『こちらはアスラン・ザラ』 こちらは何かを押し殺すような、そんな声が。 どちらの声音もまだ若々しい、少年らしいもの。 「ふむ、ヒイロ君にアスラン君か。一つ提案があるのだが、ここはまず情報交換と行かないかね?」 しばし沈黙があり。 『『いいだろう』』 二人の声が重なった。 「MU戦争に東京ジュピター、か。」 『信じられないのも無理ないな、私でも実際に体験していなければ到底信じられんだろう。 もっとも、人型機動兵器が主力の宇宙戦争というのも十分信じがたいがね。』 九鬼と名乗る軍人はそう苦笑したが、科学技術の集大成であるコーディネーター・アスランにしてみれば、 MUだのドーレムだのといったオカルト話は正直受け入れがたい。 逆にヒイロの語るA.C.歴の世界は宇宙移民やMSの台頭、など自分たちC.E.の歴史とよく似ており受け入れやすかったのだが。 最も、二人には肝心のナチュラルとコーディネーターの対立やコーディネーターの存在そのものを教えてはいない。 当然、自分がコーディネーターであることもだ。 自分と親友を引き裂いたナチュラルたちへの不信感はアスランの中で拭い難いものへとなっていた。 『MUとやらは俺たちをここに集めたあの怪物と関係があるのか?』 そのヒイロからの質問に、はっ、と我に返る。 そうだ、オカルトじみた存在ならこのゲームに巻き込まれた時点で嫌と言うほど思い知らされている。 『残念ながら、私もあのノイ=レジセイアとやらは見たことも聞いたことも無いな。』 『残念ながら、私もあのノイ=レジセイアとやらは見たことも聞いたことも無いな。』 「そうか。」 落胆はなかった。 元々、さほど期待していたわけでもなく。 九鬼が真実を述べているとも限らないのだ。 (リリーナ…) 九鬼はリリーナ・ピースクラフトと名乗る少女とその仲間に襲撃された、と言った。 武器を捨て話し合いましょう、と言われ信用して近づいた所で奇襲を喰らい、ほうほうの呈で逃げ出したと。 その話を無表情に聞きながら、ヒイロはこの男は信用できないと確信した。 同時に思うのはリリーナの安否。 九鬼の話し方から彼女がまだ無事らしいのことは分かったが、行動をともにする輩が信用できるとは限らない。 リリーナを誰かに殺させる訳にはいかない。彼女は自分が殺さなければならないのだから。 ヒイロ・ユイの行動方針は定まった。 リリーナ・ピースクラフトを探し出す、いかなる手段を使ってでも。 情報交換は順調に進み、頃合を見計らって九鬼は提案する。 「それでだ、身を守るためにも私たちでチームを組まないかね?」 しばし沈黙があり 『いいだろう』『分かりました』 少年たちからは承諾の返事が。 その返事を聞き、九鬼は内心狂喜する。有力な手ごまが二人、手に入ったのだ。 アスラン・ザラはザフトという軍隊の、ヒイロ・ユイはOZという私設軍でそれぞれエリートパイロットだったらしい、 軍人らしく武器を捨てて話し合うなどと言った腑抜けた考えは持っていない。 さらに二人の機体は高機動中距離・近距離戦用で、自機は長距離支援用。 二人を前衛に立たせ、自分は火力支援に徹すれば身の安全は確保される。 ようやく、自分にもつきが回ってきたようだ。 こうして仮初の同盟は成立した。 【ヒイロ・ユイ 搭乗機体:レイダーガンダム(機動戦士ガンダムSEED) パイロット状況:冷静、疲労、体中に軽い痛み 機体状況:EN切れ寸前 現在位置:F-6 第一行動方針:何とかして補給する 第二行動方針:リリーナの捜索 最終行動方針:???】 【アスラン・ザラ 搭乗機体:ファルゲンマッフ(機甲戦記ドラグナー) パイロット状況:冷静 機体状況:良好 第一行動方針:生きて返る、それ以外は未定 最終行動方針:未決定】 【九鬼正義 搭乗機体:ドラグナー2型カスタム(機甲戦記ドラグナー) パイロット状況:上機嫌 機体状況:良好、弾薬を多少消費 第一行動方針:手ごま二人の信用を得る 第二行動方針:確実に勝てる相手以外との戦闘を避ける 最終行動方針:ゲームに乗って優勝】 備考:ヒイロは経歴を詐称しています(OZのパイロットと偽る) また九鬼に不信を抱いています。 アスランもコーディネーターのことを伏せています 【初日 16 00】 BACK NEXT 我が道を往く人々 投下順 戦場の帰趨 我が道を往く人々 時系列順 出会いと再会 BACK 登場キャラ NEXT 迷いの行く先 アスラン 任務……了解 迷いの行く先 ヒイロ 任務……了解 The two negotiators 九鬼 任務……了解
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任務・・・・・・了解 ◆RmVnSh2jvg (神名綾人が死んだか) 奏者となるべき少年の死が報じられても、九鬼正義はさして関心を持たなかった。 むしろ、アルフィミィとかいう小娘が語った「褒美」とやらに九鬼は強い興味を抱く。 「世界の改変まで望むがまま」 途方も無い話ではあるが、異なる世界の人間を集めて殺し合いゲームを行わせる事の出来る 主催者ならば、世界に干渉することも可能なのではないかと思える。 それはゼフォンに頼った調律などよりもよほど手っ取り早い方法に思え、実に魅力的だった。 他者の思惑を遂行する立場ではなく、自らの思惑によって世界の調律を為す事のできる立場へと。 保身に生きてきた自分に舞い込んできた思わぬ機会は、実に魅力的であった。 が、九鬼は心躍らされたが、酔いはしなかった。 (果たしてあの小娘の言葉は信用できるのか?) それは、主催者にそれが可能なのかという疑念ではなく、奴らの思惑が全く見えない事による疑念だったが。 ま、どちらにせよ、自分が優勝を目指す事には変わりは無い。 褒美の件は、思わぬ楽しみを得たと考えればよいのだ。 ~~~~~~~~~ 「リリーナ・ドーリアン」 その名が告げられた時、ヒイロは不覚にも一瞬、ほんの一瞬であったが、機体のコントロールを 乱してしまう。 かつて、彼女が自分に言った言葉が思い起こされる。 「私もまた、ヒイロと戦っている」と。 思えば、自分の戦いはOZとの戦いであると共に、リリーナとの戦いでもあった。 武器を持たぬ戦い、信念の戦いを貫いてきたリリーナ・ピースクラフトと。 護るべきものも、任務も、敵も見失い、ただ混沌たる戦火に身を委ねる事しか出来ない自分を照らし合わせ。 ヒイロは彼女に対し、敗北感を感じていた。 戦えども戦えども、それは信念に裏づけされた戦いなのかは疑わしい。 彼女に対し、決して対等に立てない自分自身に苛立ちながら、それでもヒイロは戦い続けるしかなかった。 だが、戦火の果てに、リリーナは自ら再建した完全平和主義国家サンク・キングダムを失い――― そして、理想が敗れた彼女の選んだ道は―――サンク・キングダムを滅ぼしたロームフェラ財団に身を預け、 その求心力として、都合の良い傀儡として利用される事だった。 財団代表であり、地球圏統一国家の女王でもある「クイーン・リリーナ」。 彼女がいまだ信念を曲げてはいない事を知る術が無いヒイロには、そんなリリーナの姿は 偽りの平和の象徴としか映らない。 失望の中、ヒイロが選んだ道は―――偽りの平和の象徴と化したリリーナを殺す事だった。 それが、自らの遂行すべき任務であり、そして、リリーナとの戦いの決着。 この殺し合いゲームの中においても、それは変わらなかった。 だが……。 (俺は……また失ったのか) 放送で告げられたリリーナの死。 ヒイロは、激しい喪失感を感じていた。 (俺は、何をすればいい) 殺すべき目標を失い、任務をも失った。 (戦い続ければいいのか?だが、その戦いの果てに何が残る?) かつてのようにただ戦いに身を置いたとしても、自分を戦いのための戦いへと駆り立てる原動力であった リリーナの存在は、失われてしまった。 (レイダーは何も答えてはくれない) 自分が身を預ける鋼鉄のコックピットは、ただ自らを取り巻く情報を計器やモニタ上に冷たい 文字や数値の羅列として映し出すだけだ。 ゼロのように、向かうべき道を示してくれる事はない。 (いや……) ゼロの示す未来も、自らの中にある可能性を拾い出すものに過ぎない。 ゼロ・システムは鏡のようなもの。正しき道を示す事が出来るかは、システムを使う者に委ねられている。 (答えは……自身で見つけるものだ) そして、すべき事の答えは、すでにヒイロ自身の中で決まっていた。 (俺が、俺自身に、任務を授けよう) 自らの感情に従った、かつて無いほどに明確な任務。 (リリーナの死の真相を知り―――そして、彼女を殺害した者を殺す) 面を上げたヒイロの眼差しには、迷いは欠片もない。 リリーナへの想いが、彼女を殺した者への憎悪が強いが故に。 (任務―――了解) ヒイロ・ユイは内なる激情を糧に、任務遂行の為のマシーンとして研ぎ澄まされてゆく。 ~~~~~~~~~ 自分は、ラクス・クラインを愛していたのだろうか。 自分が彼女に対して抱いていた感情は、果たして愛情であったのか。 ―――解らない。 婚約者同士とはいえ、アスランは、彼女についてあまりにも表面的な事しか知らないのだ。 「ラクス……」 だが、アスランの胸中は、悲しみが沸き起こっていた。 その眼より一筋の雫が滴り落ち、ファルゲンのシートを濡らす。 間違いなく、自分はラクス・クラインの事を好きであった。尊敬し、敬愛もしていた。 それは恋人としてではなく、隣人としての感情であったかも知れないが、 間違いなく好意を抱いており、彼女に対して婚約者としての義務を果たしたいとの思いもあった。 「……どうして、君が」 だから、放送で彼女の名が告げられた時は衝撃を隠せなかった。 自分が早く彼女と接触していれば、彼女を護れたかも知れないのだ。 自分は、婚約者を護るという義務を果たすことが出来なかった。 それが、ラクスに対して酷く申し訳ない事だと思えた。 ラクスの歌を待ち望む、プラントの人々に対しても。 ラクスの死の真相を知る事。そして、ラクスを殺した者が居れば、仇を討つ。 それが、彼女の婚約者としても、ザフト軍パイロットとしても、自分が果たすべき義務。 今の自分の、すべき事。 操縦桿を握る手に力が戻る。 ~~~~~~~~~ 「九鬼正義さん、そしてヒイロ・ユイ。 突然で済まないが、この同盟から抜けさせてもらう。 やるべき事ができた今、あなた方をそれに付き合わせる訳にもいかないし、 一人の方が何かと動きやすい」 突然のアスランの申し出に、九鬼は内心舌打ちした。 先ほど放送で死者の名が呼ばれた際に二人が動揺を見せた事に、九鬼は気づいていた。 アスランははっきりとその名を呟き、そしてヒイロもまた、ともすれば見逃しかねない 程度ではあるが、機体の動きの乱れによって内なる動揺を曝け出していたのだ。 優れた兵士であるらしい二人であるが、自分の世界では考えられないくらいに若い兵士でもある。 短絡的な行動に出やしないかとの懸念を抱きはしたが、案の定である。 「放送で呼ばれた者の中に、知り合いが居たようだね。 先ほど君は、ラクスという名を呟いていたよ。 ……君のやるべき事とは、仇討ちかね」 「……あなたに話す必要は無い」 内心の苛立ちを表に出さず、九鬼は静かにアスランに問うが、アスランに返答を拒否され、 僅かに眉を歪めた。 それでもすぐに平静を装い、語気も穏やかにアスランを説得しようとする。 「仇討ちであろうと情報収集であろうと、我々にも協力できるだろう。 こういう状況だからこそ、冷静にならなければならん。 単独行動で出来る事など限られているのだから。 違うかね、ヒイロ・ユイ君」 「………」 ヒイロは沈黙するのみで、返答はない。 九鬼は咳払いの後、話を続けた。 「別に同情心から協力を申し出ているのではないよ、アスラン・ザラ君。 我々にもメリットがあるからこそ、協力しようというのだ。 君の知人は、危険な殺人者に殺された可能性が高いのだから。 殺人者を倒す事は、我々にとっても安全を確保する事に繋がr」 「あなたも……ヒイロ・ユイも、殺人者ではないという保障はない」 九鬼の言葉は、アスランの言葉に遮られる事となる。 九鬼の事もヒイロの事も、アスランは何も知らない。 だが、油断ならない雰囲気を漂わせている事はわかる。 それに、よく見るとヒイロのレイダーの装甲には損傷らしい損傷こそなかったが、 着弾の痕らしい焦げ目がついていたし、オイルか何かだろうか、 ※赤みがかった液体が固まったらしい汚れが、返り血のようにこびり付いていた。 激しい戦闘を繰り返してきたらしい事は、明白なのだ。 故に、ヒイロが殺人者である可能性は少なからずあった。 「だが、何も情報がない以上、このまま行かせてくれればあなた方に仕掛ける事もしない」 「君を行かせる事で、我々にもリスクが生じるのd」 「もういいだろう、九鬼正義。 アスラン・ザラ、行くならば早く行け。 背中を撃つような真似はしない」 頑ななアスランに対して次第に苛立ちを隠せなくなって九鬼の言葉を、ヒイロの言葉が遮った。 ヒイロとアスランが互いの目を見据え。 アスランの鋭い視線と、ヒイロの氷のように冷静な視線が交錯する。 「……感謝する」 短く礼を述べ、アスランが駆る蒼き鷹は飛び去った。 「ヒイロ・ユイ君。何故彼を行かせたのだね?」 「自分の感情に従って行動する事は、正しい人間の正しい生き方だ。 今は敵対する気が無いのであれば、行かせてやればいい。 それに―――」 「それに、何だというのだね?」 「今の俺達には、補給が必要だ。 ここで奴と事を構えるのは、得策ではない」 そのヒイロの返答を聞いて、九鬼はやはりヒイロ・ユイは使える手駒だと思った。 リリーナ・ドーリアンの名が告げられた直後こそ動揺を見せたものの、 今の彼はすべき事を見失ってはいない。冷静に物事を判断できる優れた兵士だ。 それ故に油断できない所もあるが、これほど優れた兵士でも動揺を隠せないほどに リリーナ・ドーリアンとは浅からぬ関係にあったという訳だ。 うまくすれば、あのいけ好かないネゴシエイターとヒイロを潰し合わさせる事も出来るかも知れない。 「ふむ、的確な判断かも知れんな。では、隣接するG-6エリアの基地へと向かう事を提案するが?」 「了解した」 思惑を胸に秘め、二人は消耗した機体を万全にするべく、基地へと向かった。 ~~~~~~~~~~ 夕闇の中、アスラン・ザラのファルゲン・マッフは飛ぶ。 (キラ……お前もラクスの死を知ったのだろうか) ラクス・クラインは言った。 キラの事が、好きだと。 それがどんな意味で言われたのかは解らないが、ラクスは足付きに捕らわれている際、 キラと少なからず心を通わせていたかのように思える。 味方を欺いてまで、ラクスを足付きから連れ出すような真似をしたキラも、 自分と同じように、ラクスの死を悼んでいるのだろう。 (あいつの事だから……泣いているかもな) アスランは、ラクスの仇討ちを決意すると共に、キラにも会わねばと思った。 (俺が殺したはずのお前が、何故生きているのか、疑問は残る。 生きているのならば、ニコルの仇討ちを果たさねばとも思う。 だが、この殺し合いの中、俺とお前は本当に敵同士となるべきなのか?) キラに会った時、自分がどうするのかはその時にならねばわからない。 だが、どうするにしても、キラの生命が他者によって奪われたのであれば……。 自分は、悔やみきれない後悔の念を抱く事になるだろう。 【ヒイロ・ユイ 搭乗機体:レイダーガンダム(機動戦士ガンダムSEED) パイロット状況:内なる激情(判断力は極めて冷静)、疲労、体中に軽い痛み 機体状況:EN切れ寸前、※機体表面に返り血のような汚れ 現在位置:F-6→G-6 第一行動方針:補給 第二行動方針:リリーナの死の真相を知り、殺害した者を殺す 最終行動方針:???】 【九鬼正義 搭乗機体:ドラグナー2型カスタム(機甲戦記ドラグナー) パイロット状況:ワクテカ 機体状況:良好、弾薬を多少消費 第一行動方針:ヒイロを上手く使い、ネゴシエイターと潰し合わせる 第二行動方針:確実に勝てる相手以外との戦闘を避ける 最終行動方針:ゲームに乗って優勝】 ~~~~~~~~~ 【アスラン・ザラ 搭乗機体:ファルゲンマッフ(機甲戦記ドラグナー) パイロット状況:決意 機体状況:良好 現在位置:F-6→F-4 第一行動方針:ラクスの死の真相を知る、殺した者が居れば仇は討つ 第二行動方針:キラに会う 最終行動方針:???】 ※EVA零号機を撃破した際、体液かプラグ内のLCLが飛び散ってこびり付いたものです。 【初日 18 10】 BACK NEXT 第一回放送 投下順 煮えきらぬ者 依頼主死すとも依頼は死なず 時系列順 煮えきらぬ者 BACK NEXT 薄氷の同盟 アスラン 青い翼、白い羽根 薄氷の同盟 ヒイロ ゲスト集いて宴は始まる 薄氷の同盟 九鬼 ゲスト集いて宴は始まる
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アンチボディー ―半機半生の機体― ◆Nr7qwL8XuU 水面を二つの赤いしみがゆっくりと移動していく。その像は徐々に大きくしっかりとした輪郭を伴ってゆき、間もなくその像の主は水中から姿をあらわした。 姿をあらわしたのはブレンパワードとグランチャーと呼ばれる二機のアンチボディー。半機半生の機体である。 その二機のうち赤い機体は陸にあがると周囲を一度グルッと見わたした。 視界いっぱいに映ったのは砂の海。目測で前方30~40kmはこの光景が続いている。 砂浜というには広すぎる。砂漠とか砂丘とかいう類のものだろう。 視界をさえぎるものがないためか見通しはよく、立ち並ぶビル群を遠目に確認することができた。自分達以外に機影もない。 時刻を確認する。時計の針は午後4時を指していた。 水中の移動は思ったよりも時間をくったなと思ったジョシュアは 「アイビス、ここから先は身を隠す場所がない。なるべくはやくに市街地まで突っ切る」 と声をかける。了解と返してきたアイビスの声を確認するとジョシュアは先にたって進み始めた。 ジョシュアとアイビスが市街地に入ったのは市街地を確認した20分後のことであった。 周辺に敵機がいないことを確認した二人は市街地の入り口付近、A-1・A-2・B-1・B-2という四つの地区の境目、A-1側の一角に陣取った。 姿を隠しつつ南から市街地を目指してくる機体を発見しやすいというのと禁止エリアに指定された場合他のエリアに動きやすいというがその場所を選んだ主な理由である。 『傭兵か・・・さすがに手慣れているな』とへんに感心しつつ、先に降りて休憩しているはずのジョシュアに習い休むことにアイビスは決めた。 機体を降りるとジョシュアが「お疲れ」と声をかけてきた。続けてブレンにも「お疲れ」と声をかけ二三度軽く撫でていく。 「お疲れ。・・・何してるの?」 「こうしてやるとブレンもグランも喜ぶんだ。アイビスにも喜んでるブレンの声が聞こえるだろ?」 「う、うん」 『ブレンの声?何を言っているんだ』と思うも返事を返す。 ブレンを見上げてみた。そこにはいつもと変わらない小型の巨人がただずんでいるだけであって声はおろかそこに感情が潜んでいるなどとはアイビスには到底思えなかった。 「先に休んでる」 とジョシュアに一声かけるとアイビスはその場を後にした。 「わが名はギム・ギンガナム。そこのパイロット、名乗りを上げい!」 我に返ったギンガナムの武骨な声があたりに響き渡った。分離し一部を置き去りに飛び去った相手にもはや興味はなく、新たな相手を前にギンガナムは胸を弾ませた。 その名乗りで我にかえった統夜はゲッターの変形機構から思考を目の前の相手に向ける。 先ほどの戦闘から分かるのは小型機らしい俊敏な機動性と(自機とは比にならない重さを有しているであろう)50m級の機体をも投げ飛ばし殴り飛ばす怪力。 装甲の厚さは不明だが武器というものは当たらなければ須く意味がない。ヴァイサーガの装甲がそうそう破られるとも思えなかったが、攻撃を当てれるかというとどうだろう・・・。 そう簡単に攻撃を受けてくれる相手とも思えない。 とにもかくにも極力戦いたくない相手には違いなかった。 そこまで思考をまとめた統夜は策を決め腹をすえた。そして羞恥心を押し殺し柄にもなく大声を張り上げ名乗りをあげる。 「紫雲統夜!参る!!」 名乗りと同時に刀を抜き打ち、地面を滑るような衝撃波を繰り出す。 そしてそれはギンガナムの手前100mというところで周囲のビルを薙ぎ払い、大量の瓦礫を舞い上げる。ギンガナムの周囲に粉塵が立ち込めた。 「見事な先手!小生の視覚を潰しおったか・・・!!」 周囲を見渡せない状況がかえってギンガナムのテンションをあげる。 レーダーの利かないこの世界において視覚を潰されるということは索敵能力を潰されるに等しい。しかし、逆に取るとこの状況下では相手もこちらの正確な位置は捕らえられない。 ゆえに遠距離攻撃は考えられず、この粉塵にまぎれて近距離戦を仕掛けてくるはずであるとギンガナムは読む。 その予想される相手の攻撃にカウンターを合わせるべくギンガナムは相手の一撃を待った。 やがて視界が晴れたころ、ギンガナムは遥か彼方に遠ざかっていく巨体を見つける。 このとき統夜の取っていた策は実は逃げの一手であった。 眉間にしわがより、鬼の形相を呈したギンガナムは 「小生を謀りおったな・・・だが!!逃がしはせぬぞおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」 その声にドップラー効果がかかるほどの勢いで統夜を追いかけ始めた。 ほぼ同時刻、戦場から離脱し北に向かって遠ざかりつつある二機のコマンドマシンがあった。 「ガロード、引き返すぞ」 後方に遠ざかっていく戦場の様子を注意深く観察していたクインシィはガロードに通信を入れる。 「へっ?さっきは離脱するって・・・な、なんでまた・・・」 「戦場が動いた。この隙にベアー号かお前の機体を回収したい。コマンドマシンでは心もとないだろ?」 言うが早いか大きく弧を描いて真イーグル号を反転させたクインシィに大慌てでガロードも続く。 なるほどさき程離脱した戦場から離れていくヴァイサーガの巨体がどうにか見て取れる。 小型機のほうはここからではさすがに見えないがお姉さんのほうからは見えているのだろうか?そんな疑問が浮かび口を開く。 「お、お姉さん!」 「どうした?」 「さっきの小さいほうの機体は?」 「なんだ。そのことか・・・」 予想よりも冷静な言葉が返ってきて取り越し苦労かと胸をなでおろした。 きっと、策か何かあるのだろうと思い続きを待つ、そこに 「姿は確認できないが、あれほど好戦的な奴だ。大きいほうを追いかけていったに決まっている」 と的を射ているような射てないような返事がガロードに返ってきた。 ガロードが先行きに感じる言いようのない不安などお構いなしに二機のコマンドマシンは僚機を回収すべく駆け続けていった。 「ふははははっ!待てええええぇぇぇぇぇいいいいぃぃぃぃぃぃぃ!!」 通信から楽しそうな大音量の声が流れてきて思わず統夜は顔をしかめた。 えらい変態さんに目をつけられてしまったもんだと暗たんとした思いが胸をよぎり、絶っ対に逃げ切ってやるという思いを強くする。 しかし、不幸にもヴァイサーガの巨体はビルの密集するここの地形に適しておらず、逃走開始時にかなり広げたはずの距離はずいぶんと縮められていた。 そのことを確認すると焦りが生じてきた統夜は周囲を見渡す。 そして、目ざとくも左前方に他の参加者を発見する。口元に笑みがこぼれる。 一度後方との距離を確認して距離的にもちょうどいいと踏んだ統夜は全速で機体を走らせた。哀れな贄の元へと・・・。 休憩を終えたアイビスは再びブレンを見上げていた。 そうする気になったのはバルマー戦役時に活躍したある兵士が超機人とかいう生きた機体に乗っていたという話を休憩中に思い出したからではない。 その手の話は兵士が自分で箔をつけようと流したものかあるいは驚異的な働きをした兵士に神がかり的なものを感じた敵味方に流れるものとして別段珍しくはなかった。 だからそういった尾ひれのついた話に流されたわけではない。 ブレンの声が聞こえるというジョシュアの言に何かひっかかるものを感じたからこそこうして再び見上げてみる気になったのだった。 しかし、依然としてその表情からは何も読み取れなかった。ジョシュアがしてたように撫でてもみたが結果は同じだった。 しばらくの思案の後、への字にしていた口元を緩ませると 『バカバカしい・・・気にするのは止めよう。どうせ私には・・・関係ない・・・』 とアイビスは結論付けた。そこには自嘲の色が見え隠れする。 そのとき、アイビスは地響きのようなものを耳にする。体に緊張が走り周囲を見渡す。 砂漠に敵影は見えない。ビルの隙間からも見えない。 気のせいかと思ったが今度は先ほどよりも大きな地響きを耳にする。同時に大地が震える。 瞬間、転がり込むようにブレンに乗り込む。少し遅れてジョシュアもグランチャーに乗り込むのが見えた。 ―――間違いない。巨大な何かが接近してくる。 その予感はまもなく確信にかわった。ビルの谷間から50mはあろうかという巨体が姿を現しこちらに迫ってくるのを見つけたからだ。 「アイビス!」 同時に確認したらしいジョジュアから通信が入る。 「な、何っ」 「万が一戦闘になったら離脱しろ」 反論を口に出そうとした瞬間、ジョシュアが言葉を続ける。 「ブレンには武装がない!危険すぎる」 「い、言われなくてもわかってる・・・・・・ジョシュアはどうするのさ?」 「大丈夫だ。危ない橋を渡るつもりはない・・・適当に時間を稼いだら離脱する・・・」 そして程よく接近中の機体から通信が入る。 「応答を。こちら紫雲統夜。そこの二機答えてください」 その機体の大きさに若干距離感を崩されながらも、通信に答えようとするアイビスを制してジョシュアは通信に答えた。 「通信聞こえている。こちらに交戦の意思はない。こちらから一定の距離で静止してくれないか」 「無理です!ゲームにのった凶悪な奴に追われています。助けてください・・・」 何か違和感を覚えたジョシュアは追われていることだけでは追っ手がゲームに乗っているものとは判断できないと、そう反論を口にしようとして突如入った通信に遮られた。 「わが名はギム・ギンガナム。そこの二機のパイロット、名乗りを上げい!」 その唐突な小型機の名乗りにジョシュアとアイビスは面くらった 「名乗りをあげろ・・・?」 「何・・・・・・あいつ・・・」 奇妙な雰囲気が場を占め、巨大な機体の接近以来張り詰めていた空気が弛緩する。 その隙に紫雲統夜と名乗った男はこちらに機体を近づけてくる。 ぞくり―― その行動に背筋の凍りつくような感覚を感じたジョシュアは我知らず一歩退く。その鼻先を音もなく巨大な切先が通過していった。 同時に目の前に傷一つない綺麗なボディーが横切っていった。襲われたにもかかわらず損傷のまったくない機体・・・先ほどの違和感の正体はこれかと気づく。 結果としてすれ違いざまの抜き打ちをかわしたことになったジョシュアはヴァイサーガを追って機体を反転させ振り返る。 そこで目に飛び込んできたのは、自機よりも数倍の大きさを誇る機体に叩き潰されビルに沈み込むブレンと、そのまま止まらずに離脱していくヴァイサーガの後姿であった。 「アイビス!ブレン!!」 とっさに駆け寄ろうとしたその時 「むぅ・・・実に見事な名乗り!アイビス・ブレンよ・・・いざ参る!!」 「待てくれ!こちらに戦う気は」 「問答無用!!」 相手の言を完全に無視して、盛大な勘違いをしたギンガナムがジョシュアに襲い掛かった。 四機の機体が入り乱れる様を遥か上空から目撃した神隼人その場で機体を一回だけ旋回させ、今しがた起こった出来事をフライトレコードの映像に収めていた。 その四機のうち一機は既に離脱し、一機は沈黙、そして残る二機は戦闘を繰り広げている。 しかし、既にその上空に隼人はいなかった。YF-19のモニターに拡大表示されているのは三機のコマンドマシン。 同系機とおぼしき外観を持つ三機のうち二機が残る一機に接近していっている。 三機という機数、赤・白・黄色という配色の二つがゲッターを隼人に思い起こさせていた。 ただしその形状は隼人のよく見慣れたものよりもより洗練されたシャープな線を描いている。 ゆえに隼人はそれをゲッターと断定することはできなかったが、確かめずにいることも当然できない。万が一ということも十分にありうる・・・。 どちらにしろコクピットを覗けばその答えは出るはずだ。ゲッターならば合体変形機構が必ず盛り込まれているはずである。機体の動力を見極める手もある。 それを見落とさないだけの自信が隼人にはあった。 眼下で襲われている参加者と地に横たわるベアー号らしき機体を隼人は天秤にかける。 「・・・悪く思うなよ」 ゲッターの巨大な力を知る彼は眼下の光景を後回しに機体を加速させていった。 「お姉さん、あれ!」 先に気づいたのはガロードだった。右前方に一つの機影。その向かう先にあるのはベアー号、あきらかに目的は一致している。 「確認した・・・」 通信を返しクインシィは思案を練る。ここで相手に先を越されるわけにはいかない。もし戦闘になった場合、二機のコマンドマシンでは心もとなかった。 マジンガーの存在もあったがあれはだいぶ東。ここからだとベアー号よりも遠方であった。 やはりベアー号を押さえて合体するしかない。 もう一度相手を確認する。タイミング的にギリギリと踏んだクインシィは「急ぐぞ」とガロードに声をかけようしたところに先にガロードから通信が入る。 「お姉さん、話し合いしなよ。ちゃんと忘れてない?」 「うるさい!覚えてる!!」 実際は忘れていた。 「とにかく今は急ぐぞ!」 というや否や機体を加速させた。その後姿を見ながらガロードは逃げ出したい思いに駆られたその瞬間 「逃げるんじゃないぞ!一段落したらそれと言いたいことは山ほどあるんだ・・・」 釘を刺された。そのぞんざいな物言いの中に優しさもみた気がしたが先延ばしになってる折檻の光景が頭に思い浮かんだ。 「うへぇ・・・でも、お姉さん、本当に話し合」 「くどい!」 首をすくませたガロードはおとなしくクインシィに続いて行った。 周囲に轟音が鳴り響き、ビルの残骸と共にグランチャーは砂漠に投げ出された。 「くそっ!なんて力だ!!」 すばやく体勢を立て直しながらジョシュアは一人愚痴る。 気絶したアイビスを乗せるブレンから相手を放そうと応戦しながら誘導し、最後のビルを迂回して砂漠に出ようとしたとき、動きを読まれギンガナムの拳を浴びた。 とっさにガードしたものの背後のビルを巻き込んで砂漠まで殴り飛ばされたのがここまでの経過だった。 思惑通りブレンからは引き離した。ひとまずここまでは上出来とグランを励ます。 小競り合いによって破壊されたビルの影にシャイニングの両目が浮かび上がり、次の瞬間 「ぬるい!まったくもってぬるいぞ!!貴様ああぁぁぁぁぁ!!!!!」 気迫と同時にブレンに肉薄するとその右拳が振り下ろされた。 それをジョシュアはグランチャーに必要最低限のバックステップでかわさせると攻撃直後の隙を狙って間髪要れずに踏み込む。 ソードエクステンションの斬撃が唸りをあげてシャイニングに差し迫る。 「甘いわ!!!」 ギンガナムは返す右手で捌き、相手の体勢を崩すと左拳をまっすぐに突き出した。 次の瞬間、拳は空を切り、背後から衝撃がギンガナムを襲う。振り返ったギンガナムの視界は間近に迫った光線に埋め尽くされる。 それはシャイニングの胸部装甲を擦過して後方の砂漠に着弾。大量の砂を巻き上げた。 瞬時に反撃に出ようとしたギンガナムだが、牽制の弾幕を撒き一定の距離まで後退したグランチャーを確認してひとまずは追撃をあきらめる。 こちらの動きを読みきった熟練を思わせるパイロットの腕―― 一瞬にしてこちらの死角に回り込んでみせた黒歴史にも載ってない未知の移動法―― 確実に直撃させたはずの二撃目を皮一枚でかわした反応速度―― 小型機に似つかわしくないにも程がある攻撃力と機械とは思えないほど柔軟な追従性―― ―――なまじの敵ではない――― 距離を置いて対峙した二人のパイロットが互いに抱いた感想であった。 「ふ・・・ふははははは・・・・・・面白い。実に面白い」 前言を撤回したギンガナムは肉体が歓喜の声を上げ、武人の血が沸き立つのを感じた。 そして、それに答えるかのようにシャイニングガンダムはフェイスガードをオープンさせスーパーモードを発動させる。 その様子を眼前にジョシュアは簡単にはいかないことを覚悟せざる得なかった。 あともう少しでベアー号を回収できるというところでクインシィとガロードは神隼人と接触した。相手は眼前を悠々と旋回している。 「お姉さん、どうしたのさ?はやく通信しないと・・・あっ、しにくいのなら俺が・・・」 キッ!と通信機越しに睨みつけられてガロードは沈黙した。 が、いつまでもこうしててもしかたないと思い通信機に手を伸ばしたその瞬間 「こちらは神隼人。交戦の意思はない」 相手から先に通信が入ってきた。モニターのむこうでガロードが安心するのが見える。 「こちらはクインシィ・イッサーとガロード・ラン。こちらも交戦するつもりはない。できれば情報の交換を望む」 「了解した」 あっけないほどすんなりと交渉は成立し三機は情報交換を開始した。 そして、情報交換開始から十分弱のあいだに主催者や他の参加者・互いの世界観などについてなど知っていることについて情報が交換されていくが互いにたいした成果はなかった。 ネリー・ブレンについての情報も交換されたがやはり成果はなかった。 成果のない一因は隼人がゲッターについて黙っていたせいかもしれない。まだ二人を見極めてない隼人にとって、ゲッターの情報は一枚のカードとして伏せておく必要があった。 そしてそれはクインシィ側にとっても同じである。二人は万が一に備えマジンガーの情報を隠していた。 自分達の機体は最初から二機のコマンドマシン。そう思わせておいたほうが現状では二人にとって都合がいいのだ。 互いに札を伏せていようとも成果がなくとも貪欲に情報は交換されていく。 そして、話題はヴァイサーガとシャイニングガンダム・ギンガナムに及ぶ。その二機の特徴を聞いた隼人は先ほど上空から撮った映像データを二機に送信した。 「ついさっき撮ったものだが・・・この二機で間違いないか?」 「そうそう。この二機・・・」 ガロードが映像を確認して答えを返す。 その傍らでクインシィは無言で映像をみつめていた。 (これは私のグランチャーではないか・・・) その赤いボディーを見間違えるはずもなく、自分のグランチャーだと気づく。そして、そのグランチャーが桃色のブレンパワードを守るように行動している。 (何故だ!何故・・・・・・) 「隼人、場所はどこだ?」 「南西方向、A-1・A-2・B-1・B-2の四つのブロックの境目あたりだ」 クインシィの目が据わり、次の瞬間真イーグル号は急発進で飛び去っていった。 「ちょっと待ってよ、お姉さん!」 とガロードがそれに続く。 残された隼人はその様子を不審に思いつつもあとを追おうとして近場に横たわるベアー号らしき機体が気になり足を止めた。 このままYF-19で二機を追うにしろ、ベアー号らしきこいつに乗り換えて追うにしろ、ひとまずこいつをどうにかする必要があった。 なぜならば隼人の知るかぎり敵にまわせばゲッターほど厄介な機体はないのだから…。 豪腕がうなりをあげて迫ってくる。それをソードエクステンションの腹で受け止めたグランチャーの両腕は上方へはじかれ、体が宙に浮き上がった。 やばいと思った瞬間、閃光を発したシャイニングの右手が襲い掛かってくる。 それをバイタルジャンプでかわして後方に回り込むも俊敏に反応し振り向きざまに繰り出された裏拳に阻まれて牽制の射撃をおこないながらあえなく距離をとる。 が、次の瞬間ギンガナムの視界を埋めたのは距離を置いたはずのグランチャーの姿だった。ソードエクステンションが袈裟懸けに振るいおろされる。 それを一歩踏み込んでグランチャーの腕を掴んで止め、そして投げ飛ばした。 一拍置いて決定打をかわされたギンガナムはまたかと自らの拳を眺める。かわされたのはこれで何回目だろうか?まったくといっていいほど決定打が当たらない――― 唇の端がつりあがり、だからこそ面白いとギンガナムは結論付ける。だからこそ倒しがいがあるのだと・・・。 この短時間の間にバイタルジャンプに順応し始めているギンガナムを感じ、汗がジョシュアの頬を伝って落ちていった。 瞬間移動といっても過言でない移動法を誇るこの機体相手に、こうも攻撃を捌ききることができるものなのだろうか? ジョシュアが不慣れなのではない。瞬間移動を高速に置き換えると兵器としてのグランチャーの特性は高速近接戦闘を得意とするエール・シュヴァリアーのそれに最も近い。 ソードエクステンションとサイファーソードのコンセプトも通じるものがある。 いっそ逃げようかと考えて気絶したアイビスを思い出し、敵を退けるしかないかと思い直す。 「何故、ブレンを守る。ブレンはオルファンの敵だぞ!お前はオルファンの抗体に選ばれたものではないのか!?」 出し抜けに女の声がコクピットに響き渡った。ぎょっとして周囲を見渡すと通信可能距離ギリギリという遠方に二機の戦闘機(のようなもの)の姿が確認できる。 通信を返そうとしたその瞬間、いつの間にか接近していたシャイニングの拳が肩をかすめていった。まるで気を抜いてもらっては困るとでも言うように・・・。 そして再び二機の攻防は始まる。 心なしグランの動きが鈍ったように思えた。まるで混乱でもしているかのように・・・。 依然として通信を介し女の声はコクピットに響き渡っている。が、ジョシュアはそれに答えず。一瞬後には通信が入っているという事実すら忘れ去る。余裕がないのだ。 他のことに気を取られている暇などない。ほんのわずかな時間でも気を抜けばこの相手は自分を屠り殺してみせるだろう。 気の抜けない戦いにジョシュアの意識は呑まれていった。 「ふははははは・・・もっとだ!もっと小生を楽しませてくれぃ!!」 通信から流れてくる野太い声にアイビスは起こされた。最悪な目覚め方だとふやけた頭で考えると周囲の景色が飛び込んできて我に返った。 あの時、紫雲統夜の奇襲を不意をつかれつもどうにか受け止めたブレンはそのまま相手のパワーに押し切られビルに埋没した。 その際、あまりの振動にコクピット内部に体を激しくうちつけたアイビスは気を失っていたのだった。 「小生の積年の鬱屈、見事晴らしてみせよ!」 通信の声とほぼ同時に轟音が響き渡り、わずかに遅れて舞い上げられた砂がパラパラと降り注いでくる。 ・・・誰かが・・・・・・まだ戦ってる? 一体、誰が? 不意にジョシュアのことが思い浮かび周囲を見渡した。グランチャーの姿は見当たらない。 戦っているのはジョシュアらしいと思い至ったとき、助けに行かなきゃという思いよりも暗澹とした思いがアイビスの胸を満たす。 ジョシュアがこの付近から離れたのが私を巻き込まないためなら、今なお逃げずに戦っているのも私を守るために他ならない。 全ては自分のせいだ。自分が足をひっぱったためにジョシュアは・・・。 『負け犬が!』聞き覚えのある声が耳をうつ。 そう、私は負け犬だ・・・ならどうする?負け犬は負け犬らしく尻尾を巻いてまた逃げだすのか・・・。 ・・・・・・違う。私は負け犬なんかじゃない。 ほんのわずかばかりの気概が沸いたが心の中を埋めるには程遠かった。 力なく鈍く光る瞳でそれでもブレンを起こしたアイビスはせめて盾にでもなろうと、半ば自棄にも似た気持ちでブレンの足を戦場へと向けた。 光り輝く腕が安々とチャクラシールドを突破してくる。 ギム・ギンガナムが操るシャイニングガンダムの渾身の一撃がグランチャーを捕らえたと思ったその刹那、右手は虚しく空を掴む。 バイタルジャンプによって再び距離を置いて二機は対峙する。 傍目には一進一退の攻防を続けているようでいて、その実ジョシュアのほうが遥かに分が悪かった。 互いに互いを捉えられない以上、一撃の重さは重要なファクターだった。そしてそれが圧倒的に違っていた。しかも、グランの調子も落ちてきている。 ならば次の攻防に勝負を賭けるしかないとジョシュアは思い定めた。 (いけるか?グラン・・・) (・・・・・・・・・) (・・・・・・よし!) 決意を固めるや否やジョシュアとグランは突撃する。そして、ソードエクステンションから光線が放たれ、膨大な砂塵がギンガナムの周辺を満たした。 そして、そのまま砂塵に突込み真っ向からギンガナムを斬りつける。 「甘いわ!!」 防がれた。が、もとより相手の動きを止めるための斬撃。牽制の意味合いが強く、直撃を期待してはいない。 その瞬間、ギンガナムの反撃を待たずしてグランチャーの姿が掻き消え、四方八方から光線がギンガナムを襲った。 バイタルジャンプを駆使して全方位あらゆる方角からの射撃、時折それにまぎれて位置を確認するように繰り出される斬撃。 砂塵に視界を奪われた状態でかわそうと思ってもかわしきれるものではなくシャイニングは負傷していく。 しかし、かわしきれないと悟ったギンガナムはその瞬間から射撃を無視し繰り出される斬撃を待った。 そして、グランチャーが周囲に姿を現したその刹那殴り飛ばすとその方角に向かって最大戦速で突貫していった。 砂塵を裂いて吹き飛ばされたグランチャーは体勢を立て直して砂漠に着地した。 そして、前方にソードエクステンションを突きつけギンガナムが追ってくるときを待つ。 ここで朽ち果てるわけにはいかない理由がジョシュアにはあった。 その思いを確認するように胸に手を当てて見る。いつしか自分の中に落ち着いてしまったもの――自分の中のラキが熱を帯びてくる気がした。 その熱がジョシュアとラキ、二人分のオーガニックエナジーをグランチャーに与え、つきつけた銃口はそれまでにない光をたたえていた。 砂塵の中に突撃してくるシャイニングの影が映る。 この一撃に全てを賭けてジョシュアは最後の引き金を引き絞った。 シャイニングガンダムを貫くはずだった光が霧散する。 そして、それは意外にも二人の脳裏から忘れ去られた一人の少女がもたらした。 ジョシュアが引き金を引き絞ったあの瞬間、グランチャーに通信を続けわめき続けていた少女の声色が不意に変わった。 「そうか・・・お前は・・・お前は違うのだな。オルファンの抗体となるべきものではないのだな!何故だ!グランチャー、何故こんな奴を乗せている。お前は私の子だろ!!」 グランチャーに激しい動揺が走り――― 「なっ、動かない!」 ―――本来の主を目の前にしてジョシュアを拒絶する。 「シャアアアアアァァァァァァァァイニングッッッッッッッッッ!!!!!!!」 焦るジョシュアの心情とは裏腹に無情にもコックピットから映し出されている外の情景、その中の一つ光り輝く手のひらが見る間に大きくなっていく。 「フィンガアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァ・・・・・!!!!!!!!」 やがてそれが視界いっぱいに広がりジョシュアはグランチャーの頭部がこの手に捕まったということを悟る。そして、同時に急速に迫ってくる死を身近に感じた。 シャイニングガンダムの光り輝く右腕のエネルギーが収縮しグランチャーの頭部を破壊する。その過程の最後の数瞬、 瞼の裏に映ったのはラキの笑顔――― 胸の内を占めたのはラキへの想い――― 負けられないっ――― 「動け!動いてくれグラン!!」 ジョシュアはあがいた。相手の声も、通信から流れる少女の声も耳には届かず一人コックピットでなおもあがき続ける。 そして次の瞬間、グランチャーは自らを掴んでいる右腕の肘から先を斬りおとした。 吊り上げられていた状態から自由になったグランチャーはその場に崩れ落ちる。 本体から切り離されたシャイニングの右腕はそれでもしぶとくグランチャーの頭部をつかみ続けていたが今のグランチャーにそれを振りほどく余力はなかった。 しかし、ヒットエンド直前までエネルギーを溜め込んだ腕は帯電している。 再び動いてはくれなくなったグランチャーの中、ジョシュアは自分でも驚くほど冷静な目でその腕を観察していた。逃げられないという判断を頭が下す。 心はあきらめるなと叫び体はあがき続けていたが頭野中はとても冷めたく静かだった。 それならばと思い。残された時間、ジョシュアはラキの中にある自分の想いが彼女の行く道を助けてくれること願った。 「ラキ・・・」 言葉にしようとしてそれも許さず、行き場をなくしたエネルギーが膨張して爆散し、同時にジョシュアの意識は途絶えた。 唐突にH-2地区に爆音が響き渡った。その地区の北東の端の一角に大破した赤い機体と薄桃色の機体がただずんでいる。 戦場に到達したアイビスが目にしたのは光り輝く右腕に吊り上げられ力なく垂れ下がるグランチャーの姿だった。 その瞬間、自棄にも似た気持ちは霧散し助けなきゃという気持ちがアイビスの全てを満たした。その思いが誰かの同じ思いと重なりブレンは跳躍する。 「グランチャー、その腕を切り落とせ!」 オープンチャンネルを介して知らない少女の声が聞こえてきたが気にもならなかった。が、次の瞬間シャイニングの右腕を切り落とすグランチャーが目に入った。 ほっとするのもつかの間、追撃をかけようとするシャイニングの目の前にブレンはジャンプアウトすると体当たりを仕掛ける。不意をつかれたシャイニングはあっけなく弾き飛ばされた。 そして、ただひたすら遠くへとだけ願ってグランチャーの腕を掴みブレンパワードは再び跳躍したのだった。 そして現在、大破したグランチャーを前に四肢に力なくへたり込んだアイビスは呆けていた。真っ白な頭は何も考えることができなければ、涙もわいてこなかった。 『ラキ・・・』 ただ最後に耳にした言葉、その言葉が脳内に残りただひたすらにその場から逃げ出したい思いに駆られているだけだった。 【ジョシュア・ラドクリフ 搭乗機体:クインシィ・グランチャー (ブレンパワード) パイロット状況:爆死 機体状況:大破(上半身が消失している)。右手のソードエクステンションは無事 現在位置:H-2北東部 備考:長距離のバイタルジャンプは機体のEN残量が十分な時しか使用できず、最高でも隣のエリアまでしか飛べません】 【アイビス・ダグラス 搭乗機体:ヒメ・ブレン(ブレンパワード) パイロット状況:茫然自失 機体状況:ブレンバー等武装未所持。手ぶら。機体は表面に微細な傷。バイタルジャンプによってEN1/4減少 現在位置:H-2北東部 第一行動方針:その場から逃げ出したい 最終行動方針:……どうしよう 備考:長距離のバイタルジャンプは機体のEN残量が十分な時しか使用できず、最高でも隣のエリアまでしか飛べません】 【紫雲統夜 搭乗機体:ヴァイサーガ(スーパーロボット大戦A) パイロット状態:良好 機体状態:無傷 現在位置:H-1 第一行動方針:戦いやすい相手・地形を探す 第二行動方針:敵を殺す 最終行動方針:ゲームに優勝】 【クインシィ・イッサー 搭乗機体:真イーグル号(真(チェンジ)ゲッターロボ~地球最後の日) パイロット状態:興奮、困惑、やや疲労 機体状態:ダメージ蓄積、 現在位置:B-1市街地上空 第一行動方針:ギンガナムの撃破(自分のグランチャーを落された為逆恨みしています) 第二行動方針:ガロードを問い詰める。場合によってはお仕置き 第三行動方針:勇の撃破(ユウはネリーブレンに乗っていると思っている) 最終行動方針:勇を殺して自分の幸せを取り戻す】 【ガロード・ラン 搭乗機体:真ジャガー号(真(チェンジ)ゲッターロボ~地球最後の日) パイロット状態:全身鞭打ち・頭にたんこぶその他打ち身多数。 機体状態:ダメージ蓄積 現在位置:B-1市街地上空 第一行動方針:お姉さんを止める 第二行動方針:お姉さんに言い訳をする 最終行動方針:ティファの元に生還】 【ギム・ギンガナム 搭乗機体:シャイニングガンダム(機動武闘伝Gガンダム) パイロット状態:気分高揚、絶好調である!(気力135) 機体状態:右腕肘から先消失、胸部装甲にヒビ、全身に軽度の損傷、ENほとんど空 現在位置:A-2北東部砂地 第一行動方針:倒すに値する武人を探す 最終行動方針:ゲームに優勝】 【神 隼人 搭乗機体:YF-19(マクロスプラス) パイロット状況:良好(但し、激しい運動は危険) 機体状況:良好 現在位置:B-1市街地上空 第一行動方針:真ベアー号の確認 第二行動方針:クインシィとガロードの援護 第三行動方針:高高度からの、地上偵察。 第四行動方針:二人以上の組との合流(相手が一人の場合、少なくとも自分から接触する気はない) 最終行動方針:主催者を殺す 備考:まだ完全にクインシィとガロードを信用しているわけではありません】 【残り47人】 【時刻:17 45】 BACK NEXT パンがなければお菓子をお食べ 投下順 いい人たち 血に飢えた獣達の晩餐 時系列順 ガンダムファイト BACK 登場キャラ NEXT ブレンとグラン ジョシュア ブレンとグラン アイビス オーガニックな機体とニュータイプの邂逅 混乱 ギンガナム マイペース二人 混乱 統夜 殺し合い 混乱 クインシィ 極めて近く、限りなく遠い世界の邂逅 混乱 ガロード 極めて近く、限りなく遠い世界の邂逅 人間様をなめるなよ 隼人 極めて近く、限りなく遠い世界の邂逅
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Time Over ―私の中のあなたにさよならを― 65 既に大きく日が傾き始めた頃、東へ東へと進む二つの機体の姿があった。 湖面に映し出された蒼い姿は有機的な流線型を、青ベースに赤と黄を散りばめたもう一つはごつごつと物々しい姿を描いていた。 その内の蒼い機体の足が不意に止まりあたりを見回す。 北を向き、西を向き、南を向いて東に向き直る。周囲の風景に別段異変は見られなかった。 しかし、心がざわめくのをラキは感じ取っていた。既に彼女の一部となったジョシュアの心。それが熱を帯びたように熱かった。 「どうした?」 怪訝そうな声でエイジから通信が飛び、機体を寄せてきた。 「エイジ、ストレーガのハッチを開けてくれ」 返答を待たずしてブレンのコックピットから体を乗り出したラキが飛び出した。 それを慌ててフォルテギガスの腕が受け止める。いかに湖上とはいえ人が無事ですむ高さではなく、思わず冷や汗が背を伝うのをエイジは感じた。 「何をする気だ?」 ラキを落とさないように慎重にフォルテギガスの腕を操りながらエイジが質問を投げかけた。 「ジョシュアを探す。静かにしてくれ」 ストレーガのコックピットに滑り込んだラキが答えを返し意識を凝らす。 元々、彼女とジョシュアの精神はシュンパティアを介して混ざり合った。 その結果、彼女はおぼろげながらもジョシュアの存在を感じることができるようになったのだが、残念ながら大雑把すぎて位置をつかめずにいた。 それをフォルテギガスのシュンパティアを利用することでジョシュアの精神に同調しその居場所を掴む。 これがラキの考えであったが、彼女の言はいつも短く説明不足であった。 ゆえにエイジは不承不承ながらも黙ってみているしかなかった。 そして程なくラキはジョシュアの位置を掴むとコックピットから身を乗り出した。 「エイジ、ありがとう。世話になった・・・。ブレン、跳ぶぞ!」 エイジの返事を待たずしてブレンに乗り込んだラキはその場から消え去る。 何故だか分からないが急がないといけない。彼女はそんな気がしていた。 大地は分厚い氷で成り立ち、そこここに覆い茂る木もまた氷でできている。 そんな氷に覆われた冷たくも澄みきった世界でラキはたたずんでいた。 目に映るのは白と黒にその中間色からなるものだけ。美しく澄んではいてもどこか味気ない。 ヒヤリと透きとおった空気のなかで暖かな気配が風と共に頬を凪いでいった。 その気配にフラフラと釣られるように足を踏み出す。 樹氷の林の中に分け入り、時折足を止めてはわずかな温もりを確認しつつ進んでいく。 徐々に、しかし確実に気配は増し、不意に白と黒の世界から一変して緑の木々に覆われた世界が彼女の前に姿を現した。 そして、その中心で焚き木に火をくべている者を見つけ、彼女は我知らずに彼の名を呟いた。 「ジョシュア・・・」 振り返った若い男と目が合う。 衝動に駆られるままにラキはジョシュアの懐に飛び込み抱きついた。 硬直するジョシュア。しばしの混乱の後、赤くなったジョシュアに慌て引きはがされた。 「なっ!いきなり何をするんだ」 「親しい者同士が再会したときはこうすると聞いたぞ」 「誰からそんなことを」 「リアナだ。違うのか?」 思わず嵌められたという言葉がジョシュアの脳裏を横切り、頭を抱える。 私にはジョシュアがそうする理由がよくわからなかった。たしかにリアナからそう聞いたのだ。 少しのあいだ、本当に少しのあいだ、二人は他愛もないことを語り合った。 ここに来る前のことも来てからのことも話した。 アイビスという名前の女性が出てくる。何故かちょっとだけいらっとした。 どんな話をしてもジョシュアは真剣に聞いてくれる。それがうれしくてラキはついつい言葉を重ねていく。気づくとジョシュアは聞き役に徹してくれていた。 それから、ふと思い出したように若干のふくれた感じでラキは 「ジョシュア、一体今までどこへ行っていたのだ?私はお前を探していたのだぞ」 と問いかける。 「あ・・・・・・、すまない」 「だがここからは一緒だな」 その言葉にジョシュアの顔が曇り、次の瞬間ラキを抱きしめた。 「ジョシュア?」 驚いたラキは怪訝そうな声をあげる。 「・・・・・・すまない。もう一緒にいてあげられないんだ」 耳元で悲痛な声が響く。聞こえてはいたが言葉の意味がよくつかめなかった。 「ごめん。もう行かなきゃならない。ラキ、さようなら・・・・・・ありがとう」 いつの間にかそこにいるはずのジョシュアの姿は掻き消え、ラキの心象世界は急速に彩りとぬくもりを失っていく。 そしてそこには以前と変わらぬ氷の世界だけが取り残されていった。 ――ジョシュアの心は本体と同時にその活動を停止した―― 目の前の空間が突然ひらけ、夕闇に彩られ始めた空が視界に映し出される。 A-2北西の空間が歪み、いびつな音と共にネリー・ブレンがジャンプアウトしたのだ。 本日二度目の長距離バイタルジャンプ。 ブレンのエネルギー切れが原因なのか、あるいはジョシュアの感覚を見失ったことが原因か、はたまたその両方か―― ――もう、どうでもよかった。 バランスを崩したブレンが落下する。 空がゆっくりと遠ざかっていく。 自由落下にまかせるままに砂地に落ちたブレンは砂埃を舞い上げた。 それからしばらくラキはただ空を眺めていた。 (ブレン、ジョシュアが私を置いて何処かへ行ってしまった・・・・・・) (・・・・・・) なんなのだろう、この気持ちは。苦しいわけじゃない。痛いわけでもない。 ただひたすらに寂しい。ずっと一緒にあったものが、大事にしていたものがなくなってしまったように寂しい。 (・・・・・・) (?) (・・・・・・) (そうか・・・。これが悲しいということなのだな・・・・・・) これが・・・、これがかつて私が振りまいていた感情なのだな・・・・・・! こんな、こんな気持ちを!!私は・・・・・・。 腕に力がこもり、拳を握り締める。何故だか勝手に涙が溢れてきた。 それを止めようとも思わなかった。 ただひたすらに自分を許せなかった。ただひたすらにジョシュアに会いたかった。 どうしようもなくなった彼女は幼子のように声を震わせてただ泣き続けていった。 時刻は18 00を指し、最初の放送が静かに会場全体へと鳴り響いていった。 ジョシュア・ラドクリフ・・・・・ ラキの探していた人が死んだ。 ラキが跳んだ後、追いついてきたクルツと合流した。それは間違いだったのか? 目の前で平然とメシを食っているこいつを見ているとそう思えてきて、苛立ったエイジは機体へと足を向けた。 「どこへ行くんだ?」 のん気そうな声が後ろから飛ぶ。それにさらに苛立ってぞんざいに答える。 「ラキを追いかける」 「どっちへ行ったのかもわかんねぇのにどうやって?」 「・・・・・・それでもここでそうやってメシを食っているよりはマシだ」。 こういうときの正論ほど頭にくるものはなかった。 「おい」 「なんだ?」 「座れ」 「いやだ」 「いいから座れ。メシでも食って少しは冷静になれ」 もう返事も返さずに機体に向かってエイジは歩き始めた。 やれやれといった風情で立ち上がったクルツから声がかかり、振り向いたエイジに突然殴りかかる。 それを鮮やかにかわすとカウンター気味に放ったエイジのボディーブローが脇腹にささり、クルツは沈み込んだ。 「突然何を・・・・・・」 「『突然何を・・・・・・』じゃねぇ!ここは一発殴られた後に俺に諭されてお前が冷静になる。そういう場面だろうが!!」 無茶苦茶な理屈でクルツが怒り始めた。納得できないエイジも反発し口喧嘩に発展していく。 やがてふてくされたような顔でクルツが話題を変えた。 「予定とは違ったがまぁいい。いいかよく聞け。壁の向こうでラキは『行き過ぎた。引き返す』って言った。しかし、俺達が飛んできた直線上に探し人はいなかった」 たしかにあの時のラキはそう言っていた。 「ならそいつは北か南にいる・・・・・・いや、いたと考えるのが普通だろ?」 「そしてラキはその人を探しに跳んだ」 「その通りだ。そこで一つ質問だ。ブレンはどっちの方向を向いて跳んだ?」 「・・・・・・北」 「ならこっから北にラキはいる。北を向いて南に跳ぶような天邪鬼だったらあきらめろ。それともう一つ」 「もう一つ?」 「ラキがジョシュアを見つけて跳んでからいくらもたってない。にもかかわらずジョシュアという男の名前は放送で流れた。この意味分かるな?」 「ラキが争いに巻き込まれている可能性が高い」 うなずき、座り込んでいた腰をあげたクルツが機体に向けて歩き出す。 それに並んでエイジも歩き出した。 「そういうことだ。時間がない二手に分かれるぞ。捜索範囲はここからまっすぐに北北東と北北西。合流場所はB-1補給ポイントだ。場所は後で送信する」 「西は僕が行く」 「なら俺は東だな」 やがて二人は機体に乗り込み別れ際最後の会話をかわす。 「エイジ、さっきの一発殴り返すまで死ぬなよ」 「当たろうが避けようが一発は一発さ」 「この野郎」 二人の間に笑いがもれ、そして二機は急速に離れていった。 【アルバトロ・ナル・エイジ・アスカ 搭乗機体:フォルテギガス(スーパーロボット大戦D) パイロット状況:健康 機体状況:無事。ENを少し浪費。 現在位置:A-2南東部砂浜 第一行動方針:突然消えたラキを探す 最終行動方針:ゲームから脱出 備考:クルツを警戒している(やや緩和)】 【クルツ・ウェーバー 搭乗機体:ラーズアングリフ(スーパーロボット大戦A) パイロット状況:冷静、脇腹がちょっと痛い 機体状況:Fソリッドカノン二発消費、ファランクスミサイル1/3消費 現在位置:A-2南東部砂浜 第一行動方針:ラキの探索 第二行動方針:ゲームをぶち壊す 第三行動方針:駄目なら皆殺し 最終行動方針:ゲームから脱出】 「Time Over ―Don t break my heart―」 そうか・・・、ジョシュアは・・・・・・。 放送が終わった後、意外にもジョシュアの死をすんなりと受け入れている自分をラキは感じていた。 一通り泣き伏して気持ちがすっきりしたせいかもしれない。 それとも律儀にもお別れを言いに着てくれたからだろうか・・・・・・。 (ブレン、私はどうすればいい・・・・・・) ラキはジョシュアを生き返らせたかった。だけど悲しいという感情を知ったことが彼女を迷わせていた。 それに、それを―それにかかる代償をジョシュアは多分望まない気もしていた。 「うっ・・・。なんだ・・・これは?」 そんな彼女を突然懐かしい感覚が襲う。 「これは・・・・・・負の感情?」 もともと彼女にはメリオルエッセとして人の負の感情を吸収する能力が備わっていた。 しかし、それはシュンパティアの影響でジョシュアと彼女の心が混ざり合い、様々な感情に目覚めていく過程で損なわれていった特性だった。 彼女はそれらの変化をかつて自分は壊れたと表現していた。 そして、彼女の言葉を借りるなら今その特性は直ったというべきか。ジョシュアの心が休止し、彼女の体はメリオルエッセとして再び正しく活動を始めた。 放送によって会場の中に満ち溢れた怒りを、悲しみを、憎しみを、慄きを、あらゆる負の感情を綯交ぜにしたものを際限もなくその身に取り込み始めたのだ。 「うあっ・・・!くっ!!・・・・・・あ゛」 負の感情を取り込んだ彼女の体が依然と同様に喜びの声をあげる。取り込んだ負の感情が細胞に染み渡り、肉体は活性化していく。 しかし、皮肉にも彼女の精神は以前とは変わってきていた。 「嫌だ!こんなもの・・・うっ!ゲホッ・・・こんなもの・・・・・・私は欲しくない!!」 彼女の得た人間らしい考えが、道徳観が、体験した思いが、体があげる歓喜の声を嫌悪し、全てを吐き出したい衝動に駆られる。 コックピットに転がり、のたうち、目を見開き、髪を乱し、胃液を吐き、撒き散らしながらも取り込んだ感情をどうにか吐き出そうと悶え苦しむ。 しかし、彼女の意思に反して吐き出すことは叶わず、なおもその身は負の感情を取り込み続ける。 「うあっ・・・あっ!頼む!止めて・・・あ゛あ゛あぁぁぁぁぁあああああ」 悲痛な叫びが木霊する。相反する感情の板ばさみに彼女の精神は蝕まれていった。 【グラキエース 搭乗機体:ネリー・ブレン(ブレンパワード) パイロット状況:精神不安定 機体状況:バイタルジャンプによりEN1/2減少 現在位置:A-2北西部 第一行動方針:??? 最終行動方針:??? 備考1:長距離のバイタルジャンプは機体のEN残量が十分(全体量の約半分以上)な時しか使用できず、最高でも隣のエリアまでしか飛べません 備考2:エイジとクルツの捜索範囲からわずかに西へずれたところにいます】 【初日 18 20】 BACK NEXT 赤と流星、白と勇者王 投下順 嵐の前 騎士の美学 時系列順 オーガニックな機体とニュータイプの邂逅 BACK NEXT ふりまわされる人、ふりまわす人 ラキ マイペース二人 ふりまわされる人、ふりまわす人 エイジ 極めて近く、限りなく遠い世界の邂逅 ふりまわされる人、ふりまわす人 クルツ 極めて近く、限りなく遠い世界の邂逅
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もうあの頃には戻らない ◆B042tUwMgE 「また……なのか」 ザフトエリート兵士の象徴である赤服を着たアスラン・ザラは嘆く。 「また……俺にキラと戦えというのかッ!?」 『殺し合いの』の開催宣言――あの場に確かに同席していたキラ・ヤマト――分かり合えた友人との――再戦の兆しに。 アスラン・ザラ、キラ・ヤマト、ラクス・クライン。 この三名は、同じ世界よりこの殺し合いに召集を受けた仲間関係にある。 しかし、その関係に至るまでには長く、遠い道のりがあった。 アスランはザフトのパイロット、キラは連合のパイロット、そしてラクスはプラントの歌姫と、それぞれが異なる位置に身を置き、 アスランとキラに至っては敵同士という対極の関係であった。 だが、それもかつての話。 お互いの戦友であるニコル、トールの死。連合の卑劣極まりないサイクロプス発動。カガリという二人を繋いでくれた友人の存在。 そして何より、アスランを導いてくれた元婚約者の存在。 数々の試練と葛藤を乗り越え、アスランとキラはやっと剣の向き揃えることが出来たのだ。 今さら戦う理由など、ない。 「それは、ここが殺し合いの舞台でもだ!」 誰が友を殺してまで生き延びようとするものか――アスランは、このゲームに抗うことを決意した。 【アスラン・ザラ(機動戦士ガンダムSEED) 搭乗機体:トライダーG7(無敵ロボトライダーG7) 現在位置:F-1 パイロット状態:良好 機体状態:良好 第一行動方針:キラ、ラクスとの合流 最終行動方針:ゲームからの脱出】 【初日:12 20】 本編37話 始まりの葬送曲
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MISS ◆/.Cqqep.oI コスモ達との戦闘の後、ジョナサンはキラ達に気取られずに、F-91の補給をするため、B4の 補給ポイントに入っていた。地図にキラ達C6の補給ポイントとは別の近い補給ポイント載っていた のは幸いだったが、ここにきて、いくつか問題が発生していた。 (補給さえ済ませておけば、疑うまいと思ったが・・・) 「とんだ失態だな」 一つはF-91の問題。 グランチャーやJアークのように反抗することなく動く操作性、そして攻撃力・運動性には 満足している。しかし、バイタルジャンプのような瞬間移動や戦艦のような大推進力のない F-91の巡行速度は速いといえない。これまでのエリア移動に消費した時間は決して少なく なかった。 既に戦闘終了から1時間弱、キラ達と別れてから2時間は経過しており、さらにここからC5を 通過してC6まで戻らなければならないのだ。 もう一つは、長距離通信が行えない問題。 今まで危険を避けるために目視可能領域に入ってから通信していた。そのため、今まで気が付 かなかったが、時間稼ぎに通信を開いたことでようやく事態が発覚したのだ。 目視範囲で通信できたことから察するに、通信可能域は半径10km程度といったところだろう。 「はじめは故障かと思ったが、どうやら違うらしい」 (ミノフスキー粒子といったか?そいつかもしれんな) マニュアルにそんな記述があったことを思い起す。 周辺の偵察にしては長すぎる時間、そして通信不能なこの状態。ソロバンあたりは気にせん だろうが、キラはこちらの探索を始めさせかねん。動かれれば速度の違いから、合流するの が難しくなる。 「ちっ!さすがにまずいか」 (Jアークの火力・巡行能力は惜しい) 「動くなよ」 そう言いうと補給を続けた。 【ジョナサン・グレーン 搭乗機体:ガンダムF-91( 機動戦士ガンダムF-91) パイロット状態:良好。 機体状態:少々、傷が付いています。EN・弾薬を30%消費(補給ポイントにて補給中) 現在位置:B-4 第一行動方針:補給をする 第二行動方針:キラと合流 第三行動方針:クインシィの捜索 第四行動方針:キラが同行に値する人間か、品定めする 最終行動方針:クインシィをオルファンに帰還させる(死亡した場合は自身の生還を最優先)】 備考:バサラが生きていることに気付いていません。 【初日21 25】 BACK NEXT 嵐の前 投下順 ゲスト集いて宴は始まる 失われた刻を求めて 時系列順 大いなる誤解 BACK NEXT 歌えなくなったカナリア ジョナサン 我が道を走る人々
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無題 ◆T6.9oUERyk 「無敵戦艦ダイッ!!」 遠目に見るだけで全身から冷や汗が吹き出る。 己が命を賭けて戦った恐竜帝国最強のメカザウルスを傍目に、巴武蔵は歯噛みしていた。 今の彼では勝ち目は無いが、だからと言って目の前の敵を放置するわけにはいかない。 このふざけた殺し合いの舞台であの無敵戦艦がどれほどの破壊と殺戮を振りまくか検討もつかない。 仲間が要る、己の背中を任せられる仲間が、後を託すに値する友が。 巴武蔵はビルの陰に身を隠していた塔機をゆっくりと慎重に後退させる。 赤青白のトリコロールカラーに身を包んだ巨人・RX-78“ガンダム”は 巨大なハンマーを片手に東へと離脱して行った。 【巴武蔵 搭乗機体:RX-78ガンダム(機動戦士ガンダム) パイロット状態:緊張 機体状況:良好、オプションとしてハイパーハンマーを装備 現在位置:D-7 南部市街地 第一行動指針:無敵戦艦ダイに見つからずに東へ移動 第二行動指針:無敵戦艦ダイ打倒の為に信頼できる仲間を集める 第三行動指針:主催者を倒しゲームを止める 備考:無敵戦艦ダイの中の人がハ中人類ではない可能性には思い至ってません】 【初日 12 20】 BACK NEXT ……ぶっちゃけ、すっげー恥ずかしかった 投下順 憎悪 悪の美学 時系列順 彼女の答え BACK 登場キャラ NEXT ムサシ 核ミサイルより強い武器
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(怯えているのだ……この私が怯えている!? この謂われのない感情を喚起するものは何だ!? こ、これは生理反応でしかない。理性で克服できるはずだ! こんな……こんな不条理な感情!) アムロに言ったはずの言葉をもう一度己に言い聞かせる。 それでも、悪寒は消えない。振り切れない恐怖が、苛み続ける。 「う、う、うわぁぁーーっ!!」 その叫びとともに、瓦礫の中ロジャーの意識は再び戻った。 目の前にあるのは、ビッグオー……ではなく凰牙のコクピット。 光はメインカメラからも側面モニターからも確認できない。 僅かに映る黒いものの輪郭から、ロジャーは今自分が瓦礫にいることを理解した。 荒い息を必死に整えようとするが、おさまらない。 いつか見た地下の悪夢が、頭にフラッシュバックする。 「外は……あの主催者はどうなっている!?」 凰牙を動かそうとするが、あまりの圧力にびくともしない。 少しのすきまでもあれば勢いで吹き飛ばすこともできるが、密着するように敷き詰められた瓦礫は動かすことも難しい。 いくら動かそうと動かない現状。何をしても無駄という状況が逆にロジャーを落ち着かせた。 行動をやめれば、熱は引く。当然の話だ。 そうなると浮かぶのは最悪の状況。もしや、自分以外、すでに死んでいるのではないかという不安。 いや、そんなあるはずがないとロジャーの理性は言う。しかし、感情はそれを否定した。 終わったのか。自分たちのやったことは、所詮、主催者の前ではうたかたの夢だったのか。 それを思い知らされるほどの戦力差。 ロジャーの体が沈む。 ただ、ぼんやりすることしかできない。 ふと、空気はどれだけ持つのだろう、そのまま自分は朽ちるのかと思い、 それすら関係ないと頭を振った時、 「ロジャー! ロジャー、どこ!?」 外から聞こえてくるのは、アイビスの声だった。 「どこにいるの!? 答えて!」 生きていたのか。ということは魔王は去ったのか。 そのロジャーの問いを否定するように、激しい地響きが聞こえてきた。 これは、戦いの印だ。 つまり、まだ魔王と戦うものがいる? 馬鹿な、勝てるはずがない。このまま黙っていろ。そう感情が訴える。 しかし――ロジャー・スミスをロジャー・スミスたらしめる理性と記憶(メモリー)が許さなかった。 「私はここだ! ここにいる!」 ロジャーは、通信機に声を張り上げる。 すると、ロジャーの前にあった瓦礫がはじけ飛ぶ。 目の前にいたのは、ソードエクステンションを構えるブレンだ。 「助けて! シャギアとカミーユが戦ってる!」 ロジャーは、はっと気付き、シャギア同様怯えていた自分を恥じた。 通信に映るアイビスに、恐怖の色はない。ただ、未来を信じ、切り開こうとするひたむきさがあった。 自分は、いったい何をしていたのか。ほんの少しでも恐怖に震えたことが馬鹿馬鹿しい。 「凰牙、アークションッ!!」 凰牙が再び起動する。 瓦礫を払い、立ち上がる黒金の巨人。 その巨人の前に広がるのは、ただひたすらに吼えながら巨大な魔王に立ち向かう二人の青年の姿だった。 しかも押している。再生されても、ひたすら、諦めず押し続けている。 「手伝って、ロジャー! あたしじゃいい考えも浮かばないし……力が足りない! あれを倒すのに、凰牙とロジャーの力を、あたしとブレンに貸して!」 今にも戦場へ飛び込んで行こうとするアイビス。 ロジャーは、なぜか笑いがこみあげてくるのを止められなかった。 笑うロジャーを見て、ポカンとするアイビスに、口の端を小さく吊り上げロジャーは言う。 「この世界にもいつか太陽が昇る。そう信じている若者は素晴らしい。 そして……青春は降りかかる現実を有り余る勢いで押し切ること。ロジャー・スミスの法則だ」 自分もまだまだ若いつもりだが、と小さくロジャーは付け加えた。 ロジャーは、目の前の戦いを凝視する。こうして戦いを遠くから俯瞰できるのは自分とアイビスだけだ。 冷静さといままでの記憶(メモリー)を振り絞れ。 一分、二分と時間だけが過ぎる。 ロジャーは、頭を全開で回転させる。 ビックデュオ、ゴースト、多くのメガデウス……それらの戦いを機転でロジャーは乗り越えてきた。 今、もう一度その閃きを自分へ手繰り寄せる。 この状況でなお札を伏せる余裕はあるとは思えない。ならば、今目の前で起こる戦いが相手の全てのはず。 蒼い魔王は、巨大化したことと、バイタルジャンプができること以外は以前と同じだ。 かならず、どこかに突破口があるはずだ。 アイビスの焦る声が、さらにロジャーを煽る。 しかし、ロジャーもそうそう思い付くものではない。 なにか、ヒントが欲しい。目の前に与えられた記録だけでは足りない。 せめて、複数方向から見ることができれば。例えば、見上げるような今の位置からではなく空から―― 「空?」 空。その一言が急激にロジャーの頭をまとめる。 そうだ、空だ。それが唯一蒼い孤狼が動きを鈍らせた場所だ。 相手が動けない状況に持ち込み、こちらの最大の攻撃を叩きこめば―― 一瞬、またアムロのようになるではと考えがよぎる。 だが、頭を振る。そんなことを悩んでいては進まない。 賭けるしか、ない。 自分の行動が、全てを決めるかもしれない。 潰されそうなプレッシャーがロジャーにかかる。 しかし、それでもなおロジャーは不敵に笑う。 私は、私だ。私自身の記憶(メモリー)から導いた考えを信じずになにを信じる。 「どうやら空は常に、我々の味方のようだ」 ロジャーは、アイビスに自分の計画を打ち明ける。 それは、アイビスにとっても危険が大きいものだった。 だが、アイビスは迷うことなく頷いた。どこまでも強い娘だ。 データウェポン・バイパーウィップを左腕に凰牙が装着する。 一度目を閉じ、ゆっくりと目を開く。 迷いを断ったロジャー・スミスが動き出す。 ◆ ■ ◆ 「おおおおおお!!」 ガンダムF-91・ヴァサーゴの手のビームソードが蛇のように伸び、魔王にかみついた。 蒼い魔王の装甲をもぎ取り、さらに突き刺す。その動きは、クローアームによく似ていた。 サイバスターの手の中の剣が、渦巻く風を纏い疾走する。 細剣、一閃。明らかに剣より広い範囲の装甲を、一撃で切り飛ばす。 「お前のような奴はここにいちゃいけないんだよ!」 サイバスターから溢れた光が、青い魔王を打ち付ける。全身くまなく光にやられ、蒼い魔王がたたらを踏む。 その光の中、ヴァサーゴが蒼い魔王の眼線に迫る。魔王は、そのF-91の全長はあろうかという角を振り回した。 しかし、それはヴァサーゴの揺らめく蜃気楼を引き裂いただけだった。 「いいか、これは甲児の分だと思うといい」 コツンと、音を立て、先ほどまで赤熱していた角にヴェスバーが押し付けられる。 ヴァサーゴが引き金を引くと、そこから溢れた光が、角をへし折る。 それだけにとどまらず、魔王の頭が完全に消滅する。即座にビームソードが、ぽっかり空いた首に入り込んだ。 植物と機械が混じり合った内側がかき混ぜられ、肩などから汚わいな液体がこぼれた。 不死鳥に姿を変えたサイバスターの突撃。 しかし、先ほどまでとは熱量が違う。燃えるような赤の炎ではなく、収束させさらに火力を高めた青い炎。 首を失いながらも、必死に軸をずらす蒼い魔王。さらに、左手をかざし、不死鳥に叩きつける。 魔王の左腕が空を舞う。さらに、その脇腹を抉り飛ばした。 ―――ヲオオオオオオヲヲヲヲヲオオオオ……… 首を失い、抉られた空洞から響く苦悶の声。 間違いない。蒼い魔王は、初めて苦しみ、己の不利を感じている。 さらに追撃を仕掛けようとするが、魔王はバイタルジャンプで二機から逃げるように距離を取る。 損傷部分が何度もなく弾け、光を放ち、再生していく。 アムロの力を吸い取った結果が、この燃えるような生命エネルギーによる再生能力だった。 肩で息をするように、機体の上半身を上下させる魔王。 「ありえない……認めていない……!」 サイズ比そのままに巨大化し、威力を高めた5連チェーンガンが打ち出される。 だが、その悪意を掻い潜り、さらにヴァサーゴとサイバスターは肉薄した。 ヴァサーゴのハイパービームソードが、サイバスターのディスカッターが、蒼い魔王の両腕を落とす。 魔王は、姿勢制御用のウィングを展開、スラスターで空に飛び上がる。 そして、その勢いのまま大地に落下した。 鋼鉄の巨獣のスタンピートが、大地を貫き、地盤を沈下させる。 最初の落下よりもはるかに広い範囲のビルが倒壊した。 激しく動き回り、攻撃を阻む間に魔王は再び腕を再生させる。 「再生が早い……!」 シャギアは、ガンダムF-91ヴァサーゴの中で顔をゆがませる。 あまりにも再生速度が速すぎる。しかも、その巨体から繰り出される攻撃は強力無比で、一撃でも当たれば落とされる。 バイタルジャンプと言う切り札まで相手が持っているため、その体を削り切るよりも早く再生されてしまう。 「それでもやらなきゃいけないんだよ!」 オクスタンライフルに、サイバスターの風の力が収束する。 撃ち出されたBモードの弾丸が、風の力を受けて碧に輝き、蒼い魔王を貫通する。 このまま行けば、サイバスターとヴァサーゴのエネルギーが尽きるのが速いか、 それともあちらの再生力が尽きるのが先かの勝負になる。 あれだけの巨体が保持しているエネルギーを考えれば、無謀に思える勝負だ。 ヴァサーゴと、サイバスターが攻め立てる。 戦闘力では、蒼い魔王を凌いでいながら、倒しきれないが故に勝てもしない。 消耗戦だけが続いていた。 どこまでも続く繰り返しの中、サイバスターとヴァサーゴが戦い続ける。 徐々に、エネルギーがつき始めている。このまま、では、早晩落ちることは間違いない。 あともう一つ、手があれば。それを何度も呟きながらも、状況は変わらず続いていく。 もうすぐ、ヴァサーゴの状態を維持する限界だ。 「アイビス! 用意は終わっているか!?」 「もちろんだよ!」 だが、間にあった。 カミーユとシャギア以外の声が、ついに現れる。 再び現れた、ブレンと凰牙。 「そちらは、最大の攻撃を用意してほしい!」 「信じていいのか?」 その答えは、ロジャーの笑み。 その顔は、自信に満ち溢れていた。 「存在は……許されない……破壊する!」 蒼い魔王の声に、もう恐怖はない。 「いくよ、ブレン!」 ヴァサーゴの横を通り抜け飛ぶブレンが消えた。 その姿は見えない。だが、見えなくても場所は、すぐに分かる。 魔王が、背中を掻くようにもがく。しかし、次の瞬間魔王の姿は空高くにあった。 「騎士(Knight)凰牙、ファイナルステージ!」 左手の鞭が伸びあがり、凰牙の頭上で回転する。稲妻を何重にも纏い、大嵐を巻き起こす。 それが持ち主の意志に呼応し、まっすぐに蒼い魔王に飛ぶ。 アルクトスに伝わる電子の聖獣が一体、バイパーウィップのファイナル・アタック。 鞭の先端が、プラズマを帯び、加速して射出される。 ブレンが、背中からバイタルジャンプで離れる。その直後、蒼い魔王にファイナルアタックが直撃する。 ただ一発当たっただけではなく、文字通り蛇のしつこさで何度となく魔王の手を掻い潜り複雑な軌跡を描きぶつかっていく。 そして――気付いた時には蒼い魔王の体を締め上げる。絶え間なく流れ続ける紫電が、蒼い魔王を叩く。 ブレンにとって、極度に負担がかかる状況でバイタルジャンプはできないし、無理に行えばどこに飛ばされるかわからない。 おそらく、蒼い魔王も、状況は同じ。ならば、常に締め上げ圧力を加え続ければ回避はできないのだ。 大地にいるならおそらく、その質量で強引に突破も可能かもしれない。 だが今、魔王はブレンのバイタルジャンプのために空にいる。 空は、唯一魔王が自由にできない空間だ。 「今だ!」 ロジャーが、サイバスターとヴァサーゴに檄を飛ばす。 「ここからいなくなれぇぇぇ!!」 空が澄んだ青に染まる。精霊光の輝きがサイバスターの周りを飛ぶ。 穏やかな光が、一気に四つに収束した。青と緑の中間に近い色合いのそれが、輝きを増す。 サイバスターの組んだ腕が、集積した力の大きさに震えた。 世界の理を塗り替える、局地的な宇宙の新生――コスモノヴァ。 どこまでも広がる青空へ、夜の闇を変える。 「いけええええええ!!」 「何故だ……!」 放たれた極光が、蒼い魔王を討つ。 目を開くこともできないほどの光が、魔王を包む。 「次は、私だ……!」 もし、死者は消えないというのなら。オルバが、甲児が、ヒメくんが見ているというのなら。 今この一瞬だけでもいい。力を、貸して欲しい。そう――人間として。 排熱で背後の空気が歪む。放出される黒ずんだ金属の塵が、何かを形作る。 F-91ヴァサーゴの背中に黒い六本の翼が広がった。 それはヴァサーゴを超えたヴァサーゴ。 ―――ガンダムF-91ヴァサーゴ・チェストブレイク! 深紅の腕が、金色に変わる。握ったビームソードが、巨大な上二本、下一本の金色の爪になる。 翼をはためかせ、ヴァサーゴ・チェストブレイクが飛ぶ。インパクトの瞬間――爪が相手に合わせてさらに巨大化。 竜の顎〈アギト〉の如く、金色の爪が魔王を上下から挟みつぶした。 「何故……完全に……近付ける―――!」 唯一拘束を逃れた杭打ち機が、ヴァサーゴ・チェストブレイクに迫る。 しかし、杭打ち機の部分だけが突然蒼から紅に色を変え――自分の胸の中心にある球体に打ち込まれた。 「――今まで使ってくれた分、上乗せして返してもらうぞ!」 『何故だ――何故――こんなことが―――』 男の声に、人間の感情が宿る。それとは別に、言いようもない淀んだ声が場に響いた。 この声は間違いない。あの、最初の時のノイ・レジセイアの声。 「言ったはずだ。 『もし貴様が人間を取るに足りない存在だと驕っているのなら、遠くない未来貴様は再び打ち砕かれる』とな。 忘れたか? それとも、俺の言葉など覚える価値もなかったか!?」 『何故――――』 球体に杭を打ちながらも、指ではっきりと胸の赤い球体をキョウスケは指す。 「カミーユ! ここを撃て! 撃ち貫け!」 「あああああああああああああああああああああああああああ!!」 蒼い炎を纏いながら、オクスタンライフルをまっすぐに構え、サイバスターが疾走する。 ライフルの先端が、杭打ち機で割れた隙間に飛び込む。 繰り返されるゼロ距離射撃。 ひび割れていく赤い球体。 『何故―――――完全な生命に―――――!!』 最期に聞こえたのは、ノイ・レジセイアの絶叫だった。 【アムロ・レイ 死亡】 【兜甲児 死亡 】 【キョウスケ・ナンブ 死亡】 【残り 12人】 「本当に、行くのか? 意味があるとは思えないが……」 「それは行ってみなければわからない。今の私の目で見て、なにか分かることがあるか……それを知りたい」 凰牙とF-91が向かい合う。 その横では、力を使い果たし動かないブレンとサイバスター。 アイビスとカミーユはずっと気を張っていた。緊張の糸が切れたのだろう。 気絶……なのだろうがその顔は随分と安らかに見える。 塗装がはげ、ヴァサーゴとしての状態が切れた今のF-91は全身灰色だった。 もしも見る人が見れば、こう言ったかもしれない。PS装甲を切ったガンダムのようだ――と。 シャギアは、自分が基地跡に行くことをロジャーに告げた。 アムロが言ったとおり死者は消えることなく、今もオルバと自分がつながっているとしたら。 何もなくても構わない。それでも弟が潰えた地に行きたいと。 「無論、24時までは会談の場所に行く。私の地図には基地とここの途中の補給ポイントも記録されている」 「だが……」 おそらく自分が襲われることを心配しているのだろう。 ならば、答えは一つ。かつてのように、自信を持って、答える。 「お任せを。 わたしの愛馬は凶暴です」 そう言って、空を見上げる。空には、一面赤い光が渦巻いていた。 あの球体を砕いた瞬間溢れた光が夜空を染めた。それと同時、この世界にあったノイ・レジセイアの邪気は消失したのだ。 何故自分にそんなことが分かるかはたいしたことではない。分かるから、分かる。理由はいらない。 大切なことは、おそらくもうこの世界への奴から横やりはないということだ。 「決着は、人の手でということか」 いまや沈黙している蒼い魔王。いや、もはやそれは魔王ではなくただの孤狼。 コクピットには誰もいないにもかかわらず、誰かがいた暖かさだけが残っていた。 おそらく、最期にあの男が遺したものだろう。 まだポカンとしているロジャー・スミスをおいて、F-91がスラスターを吹かす。 「ガナドゥ―ルのレース・アルカーナは回収しておくといい! あれを増幅し射出すれば空間突破には十分のはずだ! 空間突破に必要な四つの攻撃のうち、反応弾も合わせJアークが沈まないかぎり三つを確保できる!」 「ま、待て!」 その言葉を無視し、F-91は空を飛ぶ。 視界は、見渡す限りの空が広がっていた。 【共通の行動方針 1:24時にユーゼスと合流。現状敵対する意思はない 2:ガウルン・キョウスケの排除 3:統夜・テニア・アキトは説得を試みる。応じなければ排除 4:ユーゼスとの合流までに機体の修理、首輪の解析を行い力を蓄える】 【カミーユ・ビダン 搭乗機体: サイバスター パイロット状況:強い怒り、悲しみ。ニュータイプ能力拡大中。疲労(大)気絶 機体状況:オクスタン・ライフル所持 EN30% 現在位置:D-3 第一行動方針:ユーゼス、アキトを「撃ち貫く」 第二行動方針:遭遇すればテニアを討つ 最終行動方針:アインストをすべて消滅させる 備考1:キョウスケから主催者の情報を得、また彼がアインスト化したことを認識 備考2:NT能力は原作終盤のように増大し続けている状態 備考3:オクスタン・ライフルは本来はビルトファルケンの兵装だが、該当機が消滅したので以後の所有権はその所持機に移行。補給も可能 備考4:サイバスターと完全に同調できるようになりました】 【アイビス・ダグラス 搭乗機体:ネリー・ブレン(ブレンパワード) パイロット状況:精神は持ち成した模様、手の甲に引掻き傷(たいしたことはない) 気絶 機体状況:ソードエクステンション装備。ブレンバー損壊。 EN50% 無数の微細な傷、装甲を損耗 現在位置:D-3 第一行動方針:使える部品を集めて機体を修理する 第二行動方針:協力者を集める 最終行動方針:精一杯生き抜く。自分も、他のみんなのように力になりたい。 備考:長距離のバイタルジャンプは機体のEN残量が十分(全体量の約半分以上)な時しか使用できず、最高でも隣のエリアまでしか飛べません】 【ロジャー・スミス 搭乗機体:騎士凰牙(GEAR戦士電童) パイロット状態:肋骨数か所骨折、全身に打撲多数 機体状態:右の角喪失、 側面モニターにヒビ、EN0% 現在位置:D-3 第一行動方針:殺し合いを止める。機体の修復 首輪の解析 第二行動方針:首輪解除に対して動き始める 第三行動方針:ノイ・レジセイアの情報を集める 最終行動方針:依頼の遂行(ネゴシエイトに値しない相手は拳で解決、でも出来る限りは平和的に交渉) 備考1:ワイヤーフック内臓の腕時計型通信機所持 備考2:ギアコマンダー(黒)と(青)を所持 備考3:凰牙は通常の補給ポイントではEN回復不可能。EN回復はヴァルハラのハイパーデンドーデンチでのみ可能 備考4:ハイパーデンドー電池4本(補給2回分)携帯 備考5:バイパーウィップと契約しました】 【シャギア・フロスト 搭乗機体:搭乗機体:ガンダムF91( 機動戦士ガンダムF91) パイロット状態:健康 ニュータイプ能力覚醒 機体状態:ビームランチャー消失 背面装甲部にダメージ ビームサーベル一本破損 頭部バルカン砲・メガマシンキャノン残弾100% ビームライフル消失 ビームソード保持。 EN5% 現在位置:D-3 第一行動方針:基地へ行き、オルバが亡くなった場所へ行ってみる。 第二行動方針:ガウルン、テニアの殺害 第三行動方針:首輪の解析を試みる 最終行動方針:主催者の打倒 備考1:首輪を所持】 ※ 戦場跡には、無傷、無人のアルトアイゼン・リーゼが放置されています。 【二日目20 30】 BACK NEXT life goes on(1) 投下順 Alchimie , The Other Me life goes on(1) 時系列順 Alchimie , The Other Me BACK 登場キャラ NEXT life goes on(1) アムロ life goes on(1) カミーユ Alter code Fire life goes on(1) アイビス Alter code Fire life goes on(1) 甲児 life goes on(1) ロジャー Alter code Fire life goes on(1) シャギア Alter code Fire life goes on(1) キョウスケ